赤いリボンの猫[完結] | ナノ

健全な男たち


翌朝。
ボーッと昨日のことを思い出しては…


「…うぅ。」


目をギュッと瞑って悶える名前。


“大好き。”
“…俺も。”


「…はぁ…。」


誰も通らない階段にへたりこんで、ポーっとしていた頭。

目の前に、よく見る顔が現れた。


「…頭が芸術ですね。」

『朝から悪口か。』



『マネージャーも大変だな。』と言いつつ大きな口を開けてアクビをする黒尾。

そんな姿を見ながらも、研磨を思い出す。



『…?ボーッとしてんな。』

「えへへ。」



幸せいっぱいの名前は、朝から可愛い姿を黒尾に見せていた。


そんな彼女にさせた本人は爆睡中である。

みんなゾロゾロと食堂へ向かっているのに、寝起きが悪い研磨の姿はまだなかった。




『研磨。』

「なに?」



食事中、研磨に声をかける黒尾。



『朝、めっちゃ可愛い名前を見たんだが…あれは、なんだ?』

「幻。」



即答する研磨に、黒尾は『んなハッキリ言われたら幻だと思っちまうだろうが。』とニヤニヤする。



『え、なに。めっちゃ可愛い苗字って。』

『なんすかなんすかそれ!!』

「…。」



研磨の隣に座っているリエーフと黒尾の前に座る夜久が身を乗り出す。

研磨は黙ったままお箸を動かす。



『ボーッとしててさ。それでいて顔紅くして、えへへって、笑ってた。恋する乙女の顔だったな…。』

『へぇ…そんな苗字見てみてぇな。』

『名前さんは何をしてても可愛いっすよ!』



リエーフの爆弾発言が、その場にいた3人の動きを止めた。



『研磨、お前にもこう言えることが必要だと俺は思うぞ。』



黒尾が研磨に言う。



「名前が何してても可愛いのはわかってる。」



研磨はお箸を片手に黒尾を見上げた。



『じゃあ研磨が思う、あの苗字が一番可愛いのはどこよ?』



夜久の質問に、研磨はお箸を動かしながらそんなの…と口を開く。



「甘えてるとき、かな。」

『名前が甘える…』

『おい、詳しく聞かせろよ、それ。』



夜久がニヤリと不敵に笑う。
研磨は少し考えた後、視線を上げた。



「キス、したい、とか?」

『?!?!』



ガタッと立ち上がったリエーフ。
ゴホゴホとむせる夜久。
黒尾が研磨の肩を掴み『したのか?!』と形相を変えて問いかける。



「…なに…こわい。」

『したのか?!』

『したんすか?!』



ガタガタとテーブルを揺らす夜久とリエーフ。
それを見て他校の部員も何事かと視線を向ける。

注目の的…研磨は怪訝そうな顔をして「座ってよ…目立ってる。」とリエーフと夜久に言った。



「なに、どうしたの?」



そこへマネージャー登場。
慌てた様子だが、それが逆にだめだった。

夜久と黒尾とリエーフが立ち上がりマネージャーを取り囲むと



『キスしたのか?』



と聞かれ、名前は顔を紅くした。

研磨は答えなくても彼女の顔に出る事はわかっていたため、深いため息をついた。



『あれは、可愛いわ。』

『キスしたいなんて言われた時には…いくらでもするぞ。』



アップ中の会話は相変わらず名前の甘える話で持ちきり。

研磨はもう絶対言わない。とこの時決めた。



『だよなー。可愛すぎだろ。』

『んで、キスしたあとは?もちろん服の裾からー…』

「クロと一緒にしないで。」

『胸あるもんな。』

『あー、確かに。』



健全な男2人にため息をつく研磨。
チラッと視線を名前に向けると、そこに名前の姿はなかった。


?どこいったんだろ…。


当たりを見渡すと、反対側のコートで練習してる森然高校の選手と話していた。


というより…困ってる?



「ねぇ、クロ。」

『ん?どした?』

「あれって…いつもの?」



指さす先をみた黒尾が、あーぁ…またか。とボールを持ったまま歩み寄っていく。


それをじっと見つめた。


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