大事にしてるんで
部員が練習をしている間に、5校のマネージャーたちが集まって夕食を作る。
生川高校のマネージャーと打ち解けた名前は楽しく食事を作っていた。
『あ、そうだ!ねぇねぇ、音駒さぁ〜イケメン多いじゃない?』
「え…イケメン…はい。」
名前は少し悩んだ後、コクリと頷いた。
生川高校のマネージャーは目をキラキラさせて『いいよねぇ〜私も音駒のマネージャーになりたかった。』とコップに水を注ぐ。
イケメンか…。
そういえば、前に、黒尾先輩がキャーキャー言われてるから…
なんでだろ、って考えたことあったっけ…。
確かに、高身長…イケメン、主将だけあってバレーは上手し…優しい。
『とくにやっくん!!かぁっこいいーよね!』
「へ…」
やっくんといえば…夜久先輩のことだよね…?
コップを握りしめてきゃぴきゃぴしている彼女を見て、名前はまた考える。
夜久先輩は…確かに、かっこいい…いや、あれはカッコいい以外の何者でもないよね。
リベロだし…私の中では一番上手い気がしてる…。
『あ、名前ちゃんもやっぱり夜久くんカッコいいと思ってるの?』
「いえ、私は…」
…待てよ。
確かに、黒尾先輩も夜久先輩もかっこいいけど…
今思い返してみれば、うちのバレー部は実は顔面偏差値高いんじゃ…
だって、研磨…。
名前の脳内では、研磨のバレーをしている姿が次々と浮かびあがる。
最近、見ては頬を赤く染める名前だが、思い出しただけでも赤くなる。
その顔を見た生川高校のマネージャーは『何?誰のこと考えてたの?』と問い詰める。
名前は視線をふらっとカウンターの向こうへ移した。
目の前に、人が立っていた。
『おいおい、生川のマネージャーさんよ。』
ニコニコしてカウンターに両腕をつく黒尾先輩の姿があった。
『可愛いからってうちのマネージャーいじめるなよー?』
『憎いのはわかる。』と腕を組み、頷く黒尾先輩。
その姿を見て生川高校のマネージャーがカウンターから身を乗り出す。
『…黒尾は名前ちゃんのこと好きなの?』
『なっ…』
「えっ…」
ふふふ、と不敵に笑う生川高校のマネージャー。
黒尾は照れているというより、どちらかというと驚いた感じ。
名前は頬を赤くした。
『だって…まずカウンターにやってくるなんて…うちじゃありえない行動。』
『あー、俺はマネージャー大事にしてるんで。』
ニコッと笑って平然とそんなことを言ってのけた黒尾。
生川高校のマネージャーが両手で口を覆って目を輝かせる。
『…いいな…私にもそれ言って…。』
『ダメです。うちのマネージャーにしか言えません。』
『それより、水くれねぇ?』と話を逸らした黒尾を見つめる名前。
その視線にすぐ気づいた黒尾がニヤッと笑った。
『なんだぁ?…惚れたって顔してんな。』
「っ…」
無邪気に笑う黒尾が、どこかいつもと違って見え、ふいっと視線を逸らす名前。
その反応を見て黒尾がボソッと呟いた。
『可愛いな。』
水を手渡された黒尾はそのまま名前に背を向けて去っていった。
名前は、思った。
「…やっぱり軽い。」
[ 88 / 110 ]
prev | list | next
しおりを挟む