カバー
「名前。」
「?どうかした?」
試合後、審判の係を担う順番になった音駒高校のメンバーはバラバラとコートの周りに各々見物する。
名前は梟谷高校と生川高校のコートの外でバインダーに得点を記録していた。
研磨が「さっきのことなんだけど…」と言いにくそうに、視線を逸らしながら言うが、名前は何のことか忘れているため、首を傾げた。
「何のこと?」
「え…俺が…」
「研磨が?」
さらにわからなくなった名前は難しい顔をする。
その顔を見て、また言って落ち込ませることはない、と思い「やっぱり、なんでもなかった。」と名前の隣に肩を並べる。
そんな研磨を不思議に思いながらも、特に様子が変なわけでもないため深く追求はせず視線をバインダーに戻した。
ちょうど、その瞬間だった。
左隣にいた夜久が、名前の前へ身を出した。
『すんません!』とコート内から声が聞こえる。
『大丈夫、そうだな。』
夜久の振り返る姿に目をパチパチさせる名前。
「ボール、夜久さんがカバーしてくれた。』
「えっ…ありがとうございます!」
状況把握できていない彼女に研磨がそう伝えると、名前は素早くお辞儀をした。
『研磨が苗字の前立っとくべきだろ?』
「よけるからダメ。」
『よけたらよけたでおもしろいかもな。』
「二人ともひどい…。」
研磨と名前と夜久の3人で話す姿に、コート内で試合をしていたメンバーが不思議そうに見ていたことをこの3人は知らなかった。
『おーい、名前!』
黒尾に呼ばれた名前は「はーい!今行きます!」と返事する。
その時、黒尾に腕を回す他校の選手の姿があった。
黒尾は『なんだ?』とその人を見る。
『名前ちゃん?だっけ?音駒のマネージャーなのか?』
先ほどまで名前たちの前のコートで試合をしていた梟谷のエース、木兎が問いかける。
にやりと不敵に笑い、『かわいーだろ。うちのマネージャー。』と言う。
それを聞いて黒尾から離れる木兎。
『とうとう…音駒に、マネージャーが!!』
『大袈裟だろ…男子校じゃねぇんだから。』
『あかーし!!!!』
ギョッとした顔で梟谷のセッター、赤葦のもとへ駆けて行った木兎を勝ち誇ったように見る黒尾。
その背から、顔を出した名前。
「黒尾先輩、どうかしました?」
『…おう。』
見上げるマネージャーの可愛さに、思わず頭の上に手を乗せた黒尾。
『やっぱりうちの名前ちゃんに勝る者はいねぇなぁー。』
「え、何事ですか。これ。」
髪をくしゃくしゃにされた名前は目の前が見えず固まる。
その姿を見たリエーフと黒尾は爆笑。
手にしたバインダーで黒尾を攻撃した名前。
攻撃はヒット。
その一部始終を向かいのコートから見ていた研磨がふっと笑った。
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