赤いリボンの猫[完結] | ナノ

いいんじゃない?


一方、名前は、体育館を出ていく黒尾と研磨の姿を見ていた。
その視線の先を見た夜久が『行って来いよ。』と言う。



『俺のせいで別れられるのだけはやめろ。誤解すぎるし。』

「誤解…?」

『研磨だよ。アイツ、部活では心広い彼氏やってっけど、実はヤキモチ焼きだろ?』



さすが夜久先輩…と名前は微笑んだ。



『あ、研磨に訳話すのはいーけど、黒尾にはぜってぇ言うな!』

「はいっわかってます!じゃ、お疲れ様でした!」



ペコっと夜久に頭を下げ、すぐさま体育館を出ていく名前に夜久は微笑んだ。



黒尾と猫背の彼を発見した名前は「研磨。」と声をかける。

振り返った研磨は『夜久さんは?』と問いかける。
夜久さんの予想通り、やはり気にしていた様子。



「夜久先輩が“研磨はヤキモチ焼きだから行ってやれ”って。」

「…余計なお世話…。」

『嬉しいくせに。』

「…。」



スッと視線を落とした研磨に、黒尾も名前も首を傾げた。
いつもなら、“うるさい。”とスタスタ歩いていくはずが、反論なく黙っている。

その様子を見た黒尾が『俺、先に部室行くわ。』とその場を去っていった。



「夜久さん、好きな人いるんだって。」

「へぇ。」

「あ、黒尾先輩には秘密だから。」



人差し指を口に当てて笑顔を向ける名前。

研磨は眉間に皺を寄せた。



「名前って、ずるいよね。」

「へっ…な、どこが?」



眉間に皺を寄せたまま前を向いている研磨の横顔を見ながら問いかける名前。



「…可愛いとこ。」



聞いた瞬間視線を落とす名前。



「…それ言ったら研磨だってずるいよ。」

「どこが?」



名前に視線を向ける研磨。
名前も視線を上げた。



「…日に日に、かっこよく見える…。」

「…なんで名前が照れてるの?」



研磨に言いながら顔を両手で隠す名前。

そんな彼女を隣にふっと笑う研磨の姿があった。



「どうしたら、いいと思う?」



ほんのり赤くした顔を研磨に向けて首を傾げる名前に、研磨は手を伸ばした。
誰もいない、体育館から部室へ繋がる道で立ち止まる二人。



「どうもしなくていいんじゃない?」

「っ…」



名前の頬にそっと触れて、いつもの何ら変わりない表情で平然と言う研磨。
ただ、いつもより、視線が重なっている時間が長い。



「…かっこいいなんて…名前しか言ってくれないし…俺は嬉しい、と思う。」

「研磨…。」




そっと手を下した研磨は、視線を落として気まずそうにする。




「俺も、我慢しないようにする。」

「う…え?我慢?」




うん。と口角を上げた研磨が歩み始める。
それを追う名前。

この日、何か、吹っ切れた様子の二人だった。



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