赤いリボンの猫[完結] | ナノ

苗字


「その時、女子はソフトボールの試合してたんだよ。校舎の手前の方でな」


 やっぱり女子の体育してる姿ってなんかいいよな……、なんて思いながら見てたら、バッターサークルに入った女子生徒。俺は思わず手にしていたシャーペンを置いた。構え方が、他の女子とは違っていた。


 体幹が出来上がってんな……。


 俺が見たところ、スポーツをしてきたように見えた。ピッチャーが投げたボールをいとも簡単に打ったその女は、悠々と駆けていく。
 その姿に、魅了されたんだ。それと同時に、コイツだ、っと思った。


「それが、苗字だ」
「……バレーと関係ないじゃん」


 冷たく、一言言い放った研磨に、黒尾は「俺の目に狂いはない」と言い切った。

 この日は黒尾が目標とする苗字という名の女子生徒を見つけることなく、時間は部活動の時間へと流れていった。
 研磨はゲームをしながら部室へ向かっていた。グラウンドに沿って歩いていると「危ない!!」という危機感の籠った声が聞こえ、視線を向けるとサッカーボールが山成で飛んできている。


なんだ…ボールか。


 ゲームをどうしようか、ボール取ろうか……など一瞬で様々な思考を回し、ゲームを持ったまま身を引いた。目の前を、ボールが通り過ぎていく。電源を切って、鞄に入れながらそのボールを追い、手に取った。


「ごめんね、孤爪くん」
「え……なんで、名前……」


 知ってるんだろう、と顔を見た瞬間だった。


「あ、いい匂いの……」
「え?」


 研磨の目の前に立ってキョトンとしている女子生徒は、今日昼休みに見た、フルーツの香りがした、名前だった。横顔しか見なかったが、やはり整った顔立ちをしている。袖を捲り上げ、制服のままでサッカーをしていた様子だ。


「いい匂い?」


 研磨の言葉に彼女は首を傾げた。ボールを手渡すなり、研磨は「きょう、横通ったでしょ?」と問いかける。自分の名前を言ってもいないのに、知っている人は、大抵彼の髪の毛の色で知られている。特に同じ学年で、体育の授業が同じとなれば、知ることとなるだろう。そう考えれば、彼女はただ面識がなかったため研磨に声はかけなかったが、名前と姿を知っていたとなれば記憶にはいるだろう、と。


[ 7 / 110 ]
prev | list | next

しおりを挟む