赤いリボンの猫[完結] | ナノ

伝わる


「…ごめん。」

「…け…」

「クロが、氷買い足し頼むって言ってた。」

「……うん。」



「わかった。」と苦笑いする名前を見てられず研磨は視線を逸らすと教室へ向かった。



何、言おうとした?


そう、聞きたい気持ちを研磨は抑えた。

言わなきゃ、いけない。
彼女には、まだできないって…たぶん、言わないと…

でも、言えない。


…言ったら、誰かにとられる気がする。


ずるいということは研磨はわかっていたが、行動に移せない自分がいることも分かっていた。



「…。」



名前は、少しホッとした。

研磨の気持ちを聞いた時から、どこか怖くて関わることをしてこなかった名前だったが、先ほど抱きしめられた腕の力を思い出し胸が締め付けられる感覚を覚える。


抱きしめられただけ、だけど…
気持ちが、伝わってきたようだった。


ぎゅっと力が込められた腕は、とても大切なものを抱きしめてるように暖かくて優しかった…それと同時に…もどかしさも感じた。


名前自身にも、それはあった。

好きな人。
でも、私は、研磨の彼女じゃない。



でも…抱きしめられたとき…
ぎゅっと、抱きしめ返したかった。


抱きしめて…研磨のそばにいさせて欲しいと言いたくなった。


でも、言えなかった。


結果的に、これでいい。


きっと、研磨なりに…考えてくれてると信じてる。


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