赤いリボンの猫[完結] | ナノ

わかっているのに


その頃、名前は、バスケ部の白石に呼び出されていた。

メッセージのやり取りがずっと続き、テストが開けて、少し会って話がしたいと言われた名前は、話すくらい、と、OKを出した。

しかし、空気は、思っていたものと大きく違っていた。



『川上や望月から聞いたんだけど…でも、言わないときっぱり諦められねぇ性格でさ…』



告白というものは、誰が相手でもドキドキする。



『好きだ。』



誰もいない、放課後の教室に、白石の声が響いた。

答えは、決まっているし…
白石も返事はわかっている。

望月が名前には好きな人が、その相手が誰なのかもわかっているため、聞かされていると先ほど彼の言葉から読み取ることができたからだ。


黙る名前に、白石は場の空気を和ますように苦笑いをし『いや…スッキリした。ありがとな。』と言う。


名前は、ただ首を横にふることしかできなかった。


教室を出ると、もうすぐ部活が始まる時間を針がさそうとしていた。



「やばいっ…黒尾先輩に怒られる!」



大きな独り言を放ち、教室を慌ただしく出ていく。

その時、誰かと思いっきりぶつかった。



お互い尻もちをつき、目をうっすら開ける。



「あ…」

「…ごめん。大丈夫?」



「ケガ、してない?」と、研磨が名前に手を差し伸べた。



名前は、ハッとして立ち上がるなり彼の腕をつかんだ。

驚いた研磨は目を見開く。



「私よりっ研磨は?!大丈夫?捻挫とかっ…」



と研磨の腕を触り確かめる。

その手を、研磨は掴むなり無言で彼女を引き寄せた。



「け…んま…?」

「…名前。」



いつも聞いてるはずの研磨の声が、甘く、優しく、耳元で聞こえ、名前の思考が停止する。


ドクンドクンと波打つ心臓は、必死に全身に血液を運んでいる様だ。


研磨は、先ほどの白石の告白を聞いていた。

階段を登れば、4組の教室の前を通らなければ3組の教室には行けないため何も思わず通ろうとしたが白石の声を聞いて、身を隠した。


彼の告白を聞いて、研磨は焦りを感じていた。


彼女にすることは、まだだと決めたのは自分。
だからと言って、彼女が好きなことには変わりない。


黒尾に言われた言葉を思い出す。

『じゃあ、俺が名前を彼女にするチャンスがあるってことだな。』


黒尾に限らず、誰にでもある状況だ。


モテる名前だから、研磨には容赦なくその危機が降り注ぐ状況下にあるのも同然だった。


焦っても、無駄。

何しても、無駄。


わかってる。

でも、焦る自分は、口より、行動で先に示してしまっている。


抱きしめたって…無駄な状況なのに。


と、研磨は彼女をゆっくり離した。


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