赤いリボンの猫[完結] | ナノ

進化するとき


『お…珍しい奴が来た。』



犬岡とリエーフには課題を課し、日が暮れかけている時刻に体育館へ姿を現したのは研磨だった。


3年である黒尾と夜久が体育館で練習を行っていることを知っていた研磨は黒尾に相談すべく体育館へ来たのだった。



『どうした。』

「…ちょっと、クロに聞きたいことがあって。」

『へぇ…珍しいこともあるもんだな。』



ボールを脇に抱えて、片方を腰にし、研磨を見下ろす黒尾。



『あー、いいよ。端で話せよ。俺、山本とするから。』



夜久の言葉に黒尾は『サンキュー。』と返事をし、端へ向かう。
その背に向かって研磨が「虎、来てるの?」と声をかける。


背を向けたままだが、黒尾が『おう。さっき来たんだ。ほら。』と指をさした方向を見ると練習着に着替えた山本の姿があった。



研磨の姿を見た山本が『おー!研磨ぁ!お前も来たのか!!』といつもの明るい様子を見せる。



研磨が「うん。」と頷くだけ頷き、黒尾の背を追った。



『あれから、何かあったのか?』



黒尾のあれから、というのは、おそらく昼休みに黒尾が教室へ戻ってからのことを指していることがわかる。


研磨は視線を床へ落とすと、「名前が、遠く感じること、言った。」と呟くように言った。



黒尾は手にしていたボールを床へ置いた。



『…それで?』

「…遠く感じるのは、俺が自分に自信が持ててないからだってことがわかった。」

『おう。それで…お前はどうするつもりなんだ?』



研磨は視線をスッと上げた。



「まだ、付き合えない。」

『ふーん…じゃあ、俺が名前を彼女にするチャンスがあるってことだな。』

「…そう、なる。…でも、クロにはあげないよ。」



ニヤニヤして、研磨を見ていた黒尾だったが、研磨の真剣な視線を見ると冗談では言えない雰囲気を醸し出していたため、真顔になる。



「というか…誰にもあげない。」



それだけ言うと、立ち上がる研磨。



『あれ、練習していかねぇのか?』

「うん。今日は帰る。」

『…へぇー。気ぃ付けて帰れよ。』



研磨が体育館の外へ向かって歩いていく背を見送りながら、黒尾は思っていた。


今日は…ねぇ。


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