赤いリボンの猫[完結] | ナノ

付き合うということ


「気にしなくていいって…どういうこと?」



研磨の言葉に、名前は不安気に研磨を見つめた。
研磨は『そのままの、意味だけど…』と視線を落として小さな声で言う。

黒尾は二人の嫌な感じを即座に感じ取り、場の空気を和ますべく割って入った。



『ちょっと待て、お前ら。言い合いなんて御免だぜ、俺は。』



自らが二人に気付かせたことであるため、自分にも責任があると思った黒尾は仲が悪くなることだけは避けたい。


研磨が黒尾を見上げて「クロがいるからこうなったんでしょ。」となんとも言えない顔をして言う。


その言葉に何も言い返せない黒尾は、『わかったわかった。じゃあ、俺がいなくなれば仲良くするんだな?』と研磨に問いかける。


研磨はさらに何ともいない顔をして「クロがいるからこうなったんだってば…」と先ほどより主張強く言った。



黒尾は『わかったわかった。じゃあ、放課後、アイツら頼むぞ。』と研磨に言って去っていった。


アイツらというのは、1年のリエーフと犬岡のことだ。



黒尾がいなくなったところで、研磨が名前の隣に並ぶと窓の外を見た。



「…クロと話してたこと、だけど。」

「うん…」



どことなく、ぎこちない雰囲気が流れる。

研磨が言いにくそうにしているのを、名前は感じ取っていたからだ。
二人ともに、緊張が走っていた。



「“彼女”って…よく、わかんない。」

「…うん。」



研磨にとって、名前と気持ちが通じ合ったことすら奇跡に近い感じがしていたのに、その上を行く“恋人”という位置に進むことにどこか怖さを感じていた。



「…名前を、取られないようにするってことなんでしょ?」

「っ…。」



開けられた窓の珊に腕を置いて、首を傾げながら彼女を見る研磨。

そんな研磨の姿に、言葉を失う名前は視線を落とした。



「今は届く距離に、いる。」



研磨から伸ばされた手が、名前の髪に触れた。



「…この距離にいれば、捕まえておける。」

「…?」



研磨の手が降りていき、さらに彼の視線は外を向き直った。
その横顔を見た名前は違和感を覚えた。

どこか、寂しそうな顔をしている研磨がいた。



「はっきり、言ってい?」



意を決したような顔をして、視線を真っすぐ名前に向けた研磨。

名前が、うん。と頷くのを確認して研磨が口を開いた。



「名前は、誰にもあげない。」



ハッキリとした口調で、面と向かって言われた名前はドキッとした。

「でも…」と視線を落とした研磨。



「少し、不安…」



[ 69 / 110 ]
prev | list | next

しおりを挟む