視線
ボールが床を跳ねる音。
シューズの擦れる音。
ボールを打つ音。
ボールを弾く音。
『もういっぽーん!』
掛け声。
体育館に響く音は、様々。
特に、基礎練習となると声も音も纏まりがなくなり、多くなる。
でも、徐々に練習は変わり、最後には音が一つになる。
そう、ボールが一つになった時。
「…バレー部ってかっこいいよね。」
ドリンクをゴクゴク飲み、首にはタオルを掛け、汗を流す部員たちに言った名前。
その視線の先は全く違うところを見ている。
黒尾が『お前の眼中には一人しかいねぇだろ。』と嫌味ったらしく言うと、リエーフが名前の視線の先を辿った。
二人の視線を知らずに、本人はドリンクをゴクゴクと飲んでいる。
『え、そうなんすか?』と、リエーフは黒尾に問いかける。
『そ。両想いってやつだ。』
『両想い?誰とっすか?!』
首を傾げるリエーフに『まぁ黙って見てな。』と言う。
じっと2人を見つめるリエーフ。
名前はポーっとした目でただ1人を見つめている。
綺麗な顎のラインから首筋に向けて伝っていく汗…
汗を拭う仕草…
そこで、ハッとした名前。
研磨が不意に視線を彼女へ向けた。
頬を赤くして狼狽える名前。
「なんか、変?」
研磨は名前以外からも向けられている視線に気付きそう問いかけたが、全員が首を横に振る結果となった。
部活が終わり、後片付けをしている時。
体育館の端でバインダーに何かを書いている名前を見つけた研磨が近寄り「名前。」と名前を呼んだ。
バインダーから顔を上げた名前は、立っている研磨に笑顔を見せる。
「ふふ…」
「何…?怖い…。」
いつもと何ら変わりない微笑みだが、何も言わない彼女に研磨は嫌そうな顔をした。
『研磨ー!このボール直してくれ!』
黒尾から放たれたボールは床を転がって研磨の元へ届けられた。
研磨はボールを持ってトボトボとボール籠へ入れに行く。
その間に書きたいことを書いた名前はバインダーを持って立ち上がった。
「何書いてたの?」
研磨の問いかけに名前はバインダーを見せる。
「みんなの名前だよ。」
研磨はバインダーに挟まる紙を見て首を傾げた。
「インターハイの出場者報告書類、なんで名前が…」
「マネージャーだからです。」
「それで嬉しそうなんだ」と名前を見るなり研磨はバインダーを彼女へ手渡した。
「やっと、マネージャーらしくなってきたなぁ…と、思って。嬉しくなった。」
ふふっとバインダーをギュッと抱きしめる名前。
ほんのり温かい気持ちになった研磨だった。
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