赤いリボンの猫[完結] | ナノ

無邪気


「名前。」



休み時間、研磨が教室に現れた。
机に座って今日当てられる場所の問題を必死になって解いていた名前は研磨の声に「ちょっと待ってね。」とペンをノートに走らせる。

数字の羅列を見て研磨は「字、綺麗。」と呟く。
その時、パタンとノートと教科書が閉じられ「終わった!これで完璧っ」と満面の笑みを見せる名前が視界に入った研磨を見て、ハッとした。



「研磨?!」

「…うるさい。」



驚きのあまり大声を出してしまった名前は、研磨の嫌そうな顔に手で口を塞いだ。

そんな二人を、教室にいた生徒は興味深々に見つめる。



「…なんか…大人っぽくなった?」



ジッと研磨を見つめる名前がカーディガン姿の研磨を見て頬を赤くする。
いつもジャージ姿だったからか、いつもと違う雰囲気を出している研磨にドキッとした。



「いつもジャージだったからでしょ?」

「確かに…」

「名前がいつもと違う。」

「あー…髪結ってみた。」



似合う?と冗談っぽく研磨に問いかける名前の姿は無邪気で笑顔に花が咲く。

誰から見ても好きな人に見せる可愛らしい姿だった。



研磨はそんな名前を見てつい頬が緩む。



「うん。可愛い。」

「っ…」



言われた本人もそうだが、周りでその様子を見ていた女子たちが心ときめかせた。
研磨はいつも無表情で、どこか取っつきにくい印象を持たれていたが、この時の一瞬でその印象を消し去ってしまった。



「クロが、今日オフだし、一緒に帰ろうって。でも、何かちょっとだけ放課後呼び出されてるから待ってて欲しいって。いい?」



少し首を傾げた研磨に名前は「うん。いいよ。」と同意する。



「アップルパイ買ってくれるって。」

「研磨、アップルパイ好きなの?」

「うん。だから、いっぱい買ってもらおうと思って。」

「ふふ…黒尾先輩に怒られるよ?」



そんな会話をする二人には、もう教室にいるなんてことは忘れているんだろうとその場にいた誰もが思った。


お昼休みには、心が『孤爪って、あんな顔するんだね。』と驚き、結羽は『二人、付き合ってるみたいでびっくりしたよ。』と驚く。



「まさか…」

『で、本心のほうは?』

「え?」



心に問い詰められ、視線を逸らす名前。



『この数日の合宿の間に何があったのかなぁ?』

『白状しろっ』

『孤爪もなんか、雰囲気変わったよね。名前のおかげかな?』



結羽の言葉に名前は「やっぱり?」と身を乗り出す。
心は『あんたも気づいたの?…相当変わったのかね?』と結羽を見る。


結羽は



『だって、あんな優しい顔する孤爪見たことなかったよ。』


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