仕返し
『もう一回ー!!』
烏野高校の攻撃の姿勢には、驚かされた。
『向こうのチビちゃんは元気だなぁ…』
コート内にいる部員の体力はもう限界に等しかった。
何度も何度も行われた練習試合。
すべて音駒高校の勝利。
黒尾はその場に座り込んだ。
烏野高校の元気な日向はどうやら研磨と知り合いらしく、ネット越しに会話をしている。
『片づけるぞー!』
黒尾の声によって片付けが行われはじめた。
『よいしょ…』
『清子さん!俺たちに任せてください!』
『え?』
『俺たちがします!』
『大丈夫?』
『『大丈夫です!!』』
烏野高校のマネージャーは、美人で大人しい人だった。
部員二人が跪いて手を広げている様子を名前が目撃し、距離を取るように後ずさりをした時、誰かに両肩を掴まれた。
『名前さん…俺が全部持ちます!!』
振り返ったところにいたのは山本。
彼女に握手してください!と言っているかのように手を差し出す。
それに再び後ずさりしながら「え…と…」と困っていると、夜久が山本の頭を叩いた。
『ほら、行くぞ。』
『…う…夜久さん、ひどいっす…』
ずるずると引っ張られて行った山本の姿を見て苦笑いしていると、黒尾に『なぁ、名前。研磨しらねぇか?』と問いかけられた。
「あぁ、そういえば、見てないですね…」
『…なぁ、名前さ。』
「は…い?!」
ガシッと肩を組まれ、びっくりした名前。
黒尾が小さい声で彼女に問いかける。
『研磨のこと、どう思ってんの?』
「え…」
黒尾の質問の意味をすぐ理解した名前の顔色が一変した。
『…あ、もういい。わかった。』
「えっ」
『顔に出し過ぎ。』
「え?!」
黒尾が見た名前の顔は頬を赤く染めた、なんとも女の子らしい顔だった。
その顔で「好き。」と言われても黒尾には何のメリットもない。
黒尾はそれを避け、ニヤニヤしながら去っていった。
「…質問しといて…答え聞かないまま行くなんて何事…」と呟きながらその背を見つめていたところ、「名前?」と背後から聞きなれた声がした。
振り返ると、研磨が首を傾げていた。
「なにしてるの?」
「け、研磨…」
先ほど黒尾にされた質問が脳裏を過る。
“研磨のことどうおもってんの?”
「っ…」
顔を真っ赤にして、俯く彼女を見て『何かあった?』と優しく問いかける。
「ううん。」
首を横に振る名前に近づくと顔を覗き込むように見た研磨。
その目と、名前の目が重なる。
ふわっと、見たことのない表情をして、研磨が口角を上げたのを名前は見逃さなかった。
「名前のほうが、可愛いと思うよ。」
「っ…」
「朝の仕返し。」と言って片付けに戻る研磨。
名前は両手で自分の顔を覆い隠す。
すっかり研磨に心奪われていた。
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