赤いリボンの猫[完結] | ナノ

目が離せない


『ほんっとうちのマネージャーは目が離せねぇなぁ…』


黒尾が帰ってくるなり、コートへ入る。



『研磨が見てなかったら絶対名前言ってただろ、アレ。』と黒尾。

『え、名前教えようとしてたのか?』と海。

『ダメっす!!名前は貴重っすよ!』と山本。

『名前さんってモテるんっすね!』と犬岡。

『モテるなんてもんじゃねぇだろ、あれは。』と夜久。


そんな会話を片耳に研磨はジッと敵の配置を見ていた。



『研磨ー。』



黒尾に手招きされ、近寄ると耳打ちされる。

その様子を見ていた名前は首を傾げた。



ホイッスルの音と共に試合が開始された。


研磨に高い確率でボールが回ると、同じ確率で得点が決まる。


ほんと…レシーブ力がすごい。
相手がいる試合を見るのは、マネージャーになってから始めてだ。

いつも紅白戦だったため、部員同士でなかなか得点が重ならない試合ばかりを見てきていたことに慣れてて、実際敵がいるとなるとここまで得点が重なっていくんだと実感していた名前だった。


研磨たちは、いつものモチベーションと今回は少し違っていた。



“うちのマネージャーに手を出した奴がいるチームだ。絶対勝つぞ。

マネージャーに手を出したことを後悔させてやろう。”



黒尾の言葉に、研磨が同意すればチームは一丸となったも同然だった。

音駒高校、男子バレー部は、マネージャーを狙っていた部員のいる相手校に圧勝する結果となったのだった。



『じゃー宿舎行くぞー』

『おーす』



黒尾の声かけに、部員がぞろぞろ宿舎へ向かう。

名前が持つ荷物はほとんど部員が気をつかって持って行ってくれたため、彼女はとても身軽で逆に申し訳ない気持ちになった。


宿舎までバスのため、部員がバスへ乗り込んだ時だった。



「名前。」

「ん?どうしたの?」



研磨が誰も座らない隣に腰を下ろした。



「口、大丈夫?」

「あぁっ…忘れてた…。」



ハッとした名前は口を手で押さえる。
そんな彼女を見た研磨は「え…」と呆れた顔を見せた。



「でも、大丈夫みたい。気にすればヒリヒリ痛むけど…」

「気を付けてよ…ほんとに目が離せない。」

「う…ごめん。」



研磨の呆れた声を聴いてしゅんとする。
その様子を見た研磨が「ねぇ、名前。」と小さく呼ぶ。

名前は研磨に視線を向ける。

二人の鼓動が高鳴りを増しつつある中…



『おい、研磨ぁーお前はこっちだ。』

「…うん。」



バスに乗り込んできた黒尾に声をかけられ、緊張していた空気が和んだ。

そのまま席を立った研磨の背を見つめながら、名前は、何、言おうとしたんだろう?と気にしていた。


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