赤いリボンの猫[完結] | ナノ

体育館


 着替えを終え、部室を出ていく研磨。その瞬間、夜久が様子のおかしい黒尾に声をかけた。


「何かあったの?」
「……ちょっとな」
「ふーん……何でもいいけど、早いとこ仲直りしてくれよな」


 そう言うと部室を出て行った夜久の背を見てから、黒尾はため息を一つついた。


 体育館では先に来ている一年生が準備をほとんど終わらせていた。研磨は体育準備室から出てきたリエーフに声をかける。


「リエーフ」
「はい! 研磨さんっ何ですか?」


 うるさい、と思い目を瞑る研磨。目の前の高身長ハーフは次の言葉を待っていた。


「ボール……出してないでしょ」
「はい! 出します! ボールがないと始まらないっすもんね!」


 準備室へ再び入っていき、ガラガラとボール籠を出してきた。研磨は踵を返し、手に持ったボトルとタオルを壁際に置く。


「研磨ー」
「はい」
「黒尾と何があったんだ?」


 体育館へ入って来た夜久に声をかけられた研磨は、された質問に「あー……」と声を出す。


「ゲーム……」
「ん? ゲーム?」


 思っていた返答と随分かけ離れたもので、夜久は拍子抜けした。うん、と頷いた研磨。


「クロのせいで、ボス戦、死んじゃったんだよね……」


 夜久はそれを聞き、なるほどなー、と納得したと同時に呆れという情が湧いてきた。


「でも、もうどうでもいい……」
「えっ……」


 夜久は研磨の言葉にぎょっとした。


「研磨さーん! トスあげてくださいよー!」
「えー……まだ部活始まってないじゃん……」


 そう言いながらも猫背の彼は背を丸めながらトボトボとリエーフの方へ向かって歩いて行く。その背を見ながら、夜久は思った。


 黒尾、そんなに気にすることでもなさそうだぞ?


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