赤いリボンの猫[完結] | ナノ

優しい


2年3組の教室をのぞき込む。
体育が同じなため、3組には知り合いの女子生徒が多くいた名前は、近くにいた3組の女子に声をかけた。



「研磨いる?」

『え、研磨って…』

「孤爪研磨。」



話し込んでいた二人の女子生徒が顔を見合わせたため、彼の名前をフルネームで伝えたところ『あぁ、孤爪くんなら教室にいるよ。』と私を見た。

教室をひょこっと覗いてみる。


プリンヘッド…。


そう思いながら探さなくとも、すぐ見つかった。
教室にさもこのクラスかのように堂々と入っていく名前。


数人の生徒の目に留まるも、気にせず真っすぐ研磨に向かって歩いて行った。


俯いてゲームをしている彼の机をコンコンと叩く。
顔をゆっくり上げた彼の視線が彼女を捕らえた瞬間目を見開いた。



「え…名前?」

「何、その幻見てるんじゃないか、って目。」


彼の前の席に腰かけ柔らかい笑みを見せる彼女。
そんな彼女から視線を外し再びゲームを始めた研磨は「何?」と用件を催促した。


「何か、あった?」


それしか、聞く術がなく、単刀直入に聞いた名前。
「別に…何も。」と素っ気なく答える研磨。

まだ研磨のことをよく知らない名前だが、ここ3日関わって彼から学んだことは素直に言うことと、言わないことがあるということ。


「もしかして…研磨にも、噂回ってる?」


言わないことは、大抵、その相手に影響していること。
研磨は優しい。


名前の小声での問いかけに、研磨は指の動きを止めた。



「ごめんね。一緒に帰ったから…」

「そうじゃない。」

「え?」


ゲーム画面から視線を上げた研磨、相変わらず彼女の顔を見ようとはしないが様子を伺いつつ口を動かしているのがわかった。


「俺は別に…嫌じゃない。…目立つのは嫌だけど…。」


研磨は、名前といい感じなんじゃないかという噂には迷惑していない。と伝えたつもりだったが、本人にはその意味は理解されていない様子。


ただ、彼女が取ったのは“噂は別にいい”という意味でだった。



目立つのが嫌、という言葉に対して申し訳なさそうに「そうだよね…ごめんね。」と謝る名前。


「そっちじゃなくて…」

「ん?」


名前がやっと視線を合わせたと思ったら、すぐ視線を落とした研磨。
言いにくそうな雰囲気が伝わってきていた。


何が言いたいんだろう、何を気にしてるんだろう?それを必死に察しようと考えている名前に研磨の重い口が開いた。



「名前、好きな人いる?」

「ん?…え?!」


好きな人というワードに顔を赤くする名前を見て、「やっぱり、何でもない。」とゲーム画面に視線を戻してしまった研磨。



「え、ねぇ、研磨…それどういう…」


バッドタイミング。
校内に5時間目の授業開始のチャイムが鳴り響いた。


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