バレー部
黒尾が脱がせた研磨の真っ赤なジャージをスカートの下に履き、シューズは自分の体育館シューズを取って来た。
研磨の方が少し背が高く、裾が床を擦っている。
『苗字ー裾巻くり上げろ。ケガされたら困る。』と黒尾先輩に言われた。
「…なんか、複雑な気持ち…なんだけど。」
「?」
捲り上げて立ち上がると、研磨がボールを持ってジッとズボンを見ていた。
『でも、なんでマネージャー候補にバレーさせるんすか?』
練習に混じる彼女を見ていた黒尾に山本が問いかける。
『苗字をマネージャーにさせるには、ただ“マネージャーしてくれ”って頼むだけじゃダメだ。』
『え、何でっすか?』
『運動が好きな奴だ。見てるだけじゃつまらないとも感じる。さっきも、一人でサッカーしてたみてぇだしな。…放課後、毎日残って練習見てるだけってことで、苗字は部には入らない。と、俺は思ってる。』
黒尾の話に、山本は『おぉー』と感心する。
『監督には許可取ってある。試合するぞー』
そう言って、コートへ入っていく黒尾の背に山本もついていった。
『苗字は、俺たちのチームでセッターしてくれ。ということで研磨は海のチームな。犬岡は俺たちのチームに入れ。リエーフ、お前は海のチームだ、研磨にトス上げてもらえ。』
手慣れたように力差を考え、分けていく主将の黒尾の姿を見て苗字は、さすが主将…と笑みを見せた。
『じゃあ苗字。しっかり頼むぜ。』
「は、い…お願いします。」
音駒高校、バレー部。
古豪と呼ばれていたが、現在は強いと聞いている。
それに…なぜか主将の黒尾先輩にバレー部へ連れてこられている。
本当に、なんで私男子バレー部に混ざって、バレーすることになったんだろう?
そして…古豪といえど強豪バレー部…私なんかがいたら練習のお邪魔に…。
今になってそんなことを考えていたら、隣から声をかけられた。
『苗字ー』
「!!」
黒尾に声をかけられ、ハッとした時すでにボールが彼の手から離れ上がっていた。
大丈夫、授業通りに…
人差し指と親指で三角をつくるように…
手のひらはボールを包み込むように…
そしてそのまま…重力を殺し、上げる。
綺麗に上がったもののアタッカーのことを考えず上げてしまい咄嗟に黒尾に処理される。
「綺麗なトスだね。」
ネットの向かいから研磨が口角をあげて微笑んでいた。
『お、研磨からのお褒めの言葉いただきましたー。』
「クロに言ったんじゃないんだけど…」
呆れた顔を見せた研磨に黒尾が『まぁ細かいことは気にすんな。』とはにかんだ。
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