涙
「名前がほかの人から好かれるのは、いいこと、だけど…俺は、なんか、もやもやして…素直に、喜べなかった。」
名前の近くにしゃがみこむと、彼女にゆっくり手を伸ばす研磨。
今は、触れられる位置にいる。
それを確認したくて、彼女の頭をなでた。
顔を上げた名前は目に涙をいっぱい浮かべていた。
「研磨と、話せないのはつらい…」
「うん。ごめんね。」
「研磨は悪くない。」
彼女の頬に伝う涙を手のひらで拭うと、擽ったそうにでも嬉しそうに微笑んだ。
その顔にきゅんとした。
「…名前。」
「…。」
名前はじっと目の前にいる研磨の目を見つめて黙っている。
耐えきれなくなり、ふいっと視線をそらした研磨は「見すぎ。」とだけ言うと、名前が「ねぇ、研磨。」と静かに名前を呼ぶ。
研磨は逸らしていた視線を彼女に戻した。
「好き?」
首をかしげて、問いかける彼女。
研磨は、若干顔を赤くして視線をそらし、「…わかってるくせに。」と小さく呟くように言った。
名前は、研磨のシャツを掴んだ。
「…なに?」
「…ううん。」
名前も、研磨と同じで、触れられる距離にいることに嬉しさを感じていた。
「返事、した?」
「うん。したよ。好きな人がいるって。」
「そっか…」
黙り込む研磨の顔をのぞき込むように見てみると、どこかその表情はスッキリしたようだった。
『おーい、仲直りしたかー?』
黙り込む二人の間に現れたのは、黒尾だった。
どうやら片付けが終わったらしい。
立ち上がる二人を見て、黒尾がギョッとした。
『え、名前…お前泣いたのか?』
「俺が泣かせた。」
「!!ち、違います!黒尾先輩!私が勝手に…」
黒尾は名前の勢いに『お、おう?大丈夫ならいいんだけどな?』と苦笑いをした。
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