赤いリボンの猫[完結] | ナノ

ごめん


遠い存在…。



研磨は、黒尾に言われた言葉を思い出し、休憩中名前の方を見た。

きょうは、まだ1度も話してない…。



夜久と話している彼女はコロコロ表情を変えて、最後にはムッとして何か文句を言いその場を離れた。

辺りをキョロキョロしていたため、リエーフと衝突し、必死に謝るリエーフに笑顔で否定する。



名前を見ていると、胸が何とも言えない感情になるのを研磨は感じていた。


同じ時間に、同じ場所にいるのに…




「遠い…。」




そう呟くと、彼女から視線を逸らして黒尾の元に歩いていく研磨。


その姿を探していた名前は、見つけるなり近くに行きたくなった。

いつもなら、いけるのに…きょうは行けない。



…研磨が、いることが、当たり前になってる?



視界に入る範囲に、研磨がいることに当たり前感を感じている自分がいることに名前はこのとき気づいたのだった。



1日…会話を交わしたのは、お礼や業務連絡のみ。


周りの部員たちも流石に二人の異変に気付き始めていた。



『研磨ー。ちょっとこい。』

「?なに?クロ。」



片付け中、黒尾に手招きされ向かった先は体育館の出入口。



『校舎、行け。』

「え、やだ。なんで。」


『いーから、行くんだよ。片付け終わったら呼びに行くからそれまでに仲直りするんだぞ。』



「意味わかんないし…」



意味のわからない言葉だけを言い捨て、体育館へ戻っていった黒尾の背を見ながらとりあえず校舎へ向かった。

渡り廊下を歩いていく…その途中で、座ってる人影が見えた。



「…研磨?」



この声…。



聞き覚えのある声に、身体は素直に反応する。



「…こんなとこで何してるの?」

「謝ろうと、思って。」


「ごめんね。」と名前は小さく呟くように研磨に謝った。



「…名前は悪くない。」

「…。」

「…俺が…勝手に怒っただけ。俺が、謝らないといけない…のに、なんで名前が…」

「だっ…て…このままじゃ…嫌だ。」


え…泣いてる?


研磨は、女の子に泣かれたことがなくどうすればいいのか困った。

でも名前の涙のおかげで、研磨が彼女に近づくきっかけとなった。

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