赤いリボンの猫[完結] | ナノ

更衣室


部活を終え、部室へ入るなり他の女子生徒はみんな帰ったようで、名前は一人で着替えていた。

携帯を確認しようと電源を入れる。

コンコンと、外から人が来た。


携帯を棚の上に置き、ドアを開けると研磨がいた。



「帰ろ。1人じゃ危ない。」

「ふふ…」



視線は一切合わないが、言葉が名前のことを思っていると証明していた。

優しい研磨に、名前は嬉しそうに笑う。

だが、研磨にとってはその笑顔が嫌な様子。
また可愛いと思われてるのだろう、と考えているに違いない。



「ねぇ、研磨。」

「…可愛いは、やめて。」



名前が研磨の名前を呼ぶと、少しの間の後、視線が彼女へ向けられた。

まだ何も言ってないのに、少し不機嫌な様子に見える。

そんな研磨に、名前は「好きだよ?」と伝えた。

彼は予想していた言葉とは大きく違ったので、「可愛い」という言葉以外の心構えというものを全くしていなかった。


「え…」と戸惑う研磨は、数秒その場で固まっていた。



「研磨、不安みたいだから。望月とか。」

「…だけだから。」



顔を除き込むように見れば、ふいっと顔を背ける研磨。
どうやら照れている様子だ。
そんな研磨にすら、きゅんとする名前は重症なのだろう。



『おい。研磨ー!』



下の部室から出てきた黒尾の声。
その瞬間、なぜか名前は研磨の手を引っ張って更衣室へ入れた。

ドアがパタンと閉まる音と共に、目の前には研磨。

触れている手から熱が帯び始める。



「名前?」



沈黙を破ったのは、研磨だった。
彼女は研磨の手をギュッと握る。

そこへ視線を移す研磨。



「ごめん…」



その言葉を耳にした研磨は、視線をゆっくり彼女へ移した。
彼女は珍しく照れている様子だ。
顔を俯かせて、ただ手を握る。


研磨はどうしたらいいのかわからず、「別に、いいけど…」と無難な返答をする。



「…いつも一緒にいるけど…もっと、一緒にいたい。」

「…え…。」



ギュッと手を握り、ギュッと目を瞑る。
名前は、研磨と2人を時間を過ごしたかった。
研磨は、素直に驚いた。
その時、棚の上に置いている名前の携帯がメッセージを受信したことを知らせている。

視線が自然とそちらへ向き、中の文字も見えてしまった。



「…名前。携帯、光ってる。」

「え…」



名前は、研磨の返事を待っていたが、聞こえた言葉は大きく違った。

携帯を手に取ると、画面を見てメッセージを確認する。


なんだ、お母さん…。


そのメッセージの下には


【苗字のこと、気になってるから。】


今朝の、白石くんの返事があった。

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