赤いリボンの猫[完結] | ナノ

理由


「って言われてもね……うーん……ここじゃなんだから、体育館で話してもいいか?」


 そう名前に問いかけた黒尾。彼女は「はい!」と元気に返事し、彼の背をついていく。


「えっと、苗字さんさ……」
「苗字でいいですよ?」
「じゃあ、苗字さ……部活入ってたりする? 運動できるだろ」


 黒尾にそう問いかけられた名前は「いえ……部活は入ってませんけど……運動は好きです」と返事する。


「だよな。その体幹は、ある程度運動できる奴が持ってるもんだ」
「……体幹? 見てわかるんですか?」


 「おう」と返事した黒尾に、彼女はどこかで自分のことを見られていたと考えることができたため、ぞっとした。


「まぁ、見させてもらったのは体育の授業だけどな」


 彼女の思ったことを悟ったかのように、誤解を招かぬよう話を始めた黒尾。


 体育か……。


 安堵した彼女。


「部活入ってないなら、尚更頼みたいんだけど……」


 体育館につき、シューズへ履き替える黒尾。名前は靴を脱ぎ、その背を追うように体育館へお邪魔する。黒尾の姿に、一年生とみられる部員たちが挨拶をする。


 さすが、主将……。


 そろそろとその背をついていく。


「え?! 先輩!! 誰っすかっ新しいマネージャーっすか?!」


 一人駆け寄ってきたが、黒尾が「逃げられたくなかったら下がれ」と言われたその人は、「はい」とおとなしく引き下がった。


「本当は廊下とかで話したかったんだが……まぁ、ここまで来てもらったことだし? 見てもらった方が早い、というわけで……研磨!』
「え?」


 のそのそと猫背の彼を見つけるなり、大きな声を出した黒尾に二人とも肩を揺らした。研磨は黒尾に視線を向けるなり「お前その下短パン履いてんだろ?」と近づきながら彼のズボンを見る。


「……履いてるけど……」
「脱げ」
「え……? なんで」
「いーから、脱げ」
「……まだ、寒い」
「動いてないからだろ?」
「……寒い」
「脱げ」
「……」


 いそいそと、黒尾に言われるがままジャージを脱ぎ始めた研磨。そのジャージを手に取り、黒尾は彼女の元へ戻り渡した。


 それが何を意味するのか、彼女は薄々察していた。


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