彼氏は誰にも見せたくない
「名前。」
「ん?」
体育館、あちらこちらから声をかけられては振り返ってを繰り返すマネージャーは大変だ。
いつもの如く、今度はボトルかな?と振り返ってみればそこにはいつもと何も変わりない研磨の姿。
「これ。」
「あぁ!えっ、どこにあった?」
「水道のところ。」
「よかった!探してたの。これでまた頑張れる。ありがと!」
とても大切にしているタオルをどこかで置いて忘れていた名前は、先ほどの無くなっていることに気づいて内心慌てていた。
しかし、研磨の手には間違いなく名前のタオルだった。
嬉しくて満面の笑みを向けた名前に言葉を失った研磨は、視線を落として「うん。」とだけ言ってトボトボと休憩をとるメンバーの元へ戻っていく。
名前は暑いなぁ…とそのタオルを無くさないように首にかけ、髪を結びなおす。
戻ってきた研磨に、黒尾が名前の行動を見て「うーん。」と唸ると、閃いたように「研磨ー。ちょっときてみ。」と手招きする。
研磨は怪訝そうな顔をし、周りにいた部員たちは何が始まるのかと興味津々だ。
「なにー…」
「ここ座れ。」
「なんー…」
「いーから。」
「…人の話聞いてよ。」
全く研磨の言葉を聞こうとしない黒尾に、文句をいいつつも言う事を聞く研磨に、部員たちは「ツンデレ…」と思ったに違いない。
黒尾のすぐ目の前に座らされた研磨は何をされるのかと不安で仕方がなかった。
サラッと、視界が広くなった研磨は、目を見開く。
「ちょ…」
「よしっいいぞ!…って、お前、なんかカッコイイな。」
黒尾はどこから持ってきていたのかゴムで研磨の髪を結ぶ。
結べるほどの長さだが、辛うじて結ばれているようなほどにチョコンと髪が結われていた。
結んだ研磨を見た瞬間、黒尾と部員たちが彼を見て意外な反応を見せた。
『プリン頭がこんな時にその魅力を発揮するのか。』と黒尾。
『金髪がすげぇ合ってる。』と夜久。
『カッコイイです!研磨さん!』と犬岡。
『研磨はイケメンだったのか?』と固まる山本。
『俺もしたいです!』とリエーフ。
それに『アホ。お前の髪じゃせいぜいちょんまげができるかできねぇかだぞ。』と黒尾がツッコミ、リエーフは『ちょんまげ?』と首をかしげた。
『じゃあ練習再開するぞー』と黒尾の声が体育館に響いた。
研磨は定期的に髪を気にする素振りを見せた。
ちょこちょこ、結われた髪を触ったり、摘んだりしては眉間にシワを寄せる。
『研磨くん。触らないの。』
「…。」
黒尾に、ニヤリとされ、研磨はため息をつく。
研磨のところへレシーブをしたつもりがリエーフのレシーブはどこへやら。
コートの外を出て、丁度通りかかった名前の手に収まった。
研磨は取りに行き、黒尾はリエーフに『まだできねぇのかおめぇわ。』と凄まれている。
パタパタと駆け寄る研磨の頭をみた名前の頬がほんのり赤くなった気がした。
研磨は首を傾げた。
「名前?」
「…う…ごめん。」
はい、と顔を俯かせてボールを出す名前からボールを受け取るとパタパタとコートへ戻る研磨。
休憩中も目を合わせれば視線を逸らされる研磨は「名前、変なんだけど。」と黒尾に言う。
黒尾はニヤッとして「そりゃお前脈ありサインだろ。」と言ったのに対して夜久は「もう付き合ってんだから脈ありもなしもねぇだろ。」と突っ込んだ。
研磨が名前が体育館を出ていったため、その後を追うように体育館を出た。
「…名前。」
「!け、研磨!」
見つけたタオルを首にかけたままボトルを片手に持っている。
名前は視線を落として、辺りをみると研磨の腕を掴んだ。
「こっち…」
引っ張られるがまま名前と体育館の一角に身を隠す。
「なんで、隠れるの?」
「うっ…」
顔を俯かせて相変わらず紅い顔。
「だって…誰にも見て欲しくない。」
「…え?」
「カッコイイもん…。」
向こう側で女子生徒が数人通っていったのを感じ、すくっと立ち上がる名前。
研磨はその手を掴んだ。
真っ赤な顔で研磨へ視線を向けた名前。
「似合う?」
「うん…似合いすぎ。ズルイ。」
再び座り混んだ名前と視線が合う。
少し、どこかムスッとしている彼女に研磨が。
「…名前はいつだって…ずるいよ。」
「…なんで…」
「いつ見ても、可愛い。」
ただ無言で頬を赤くする名前の名前を呼ぶ研磨。
「名前。」
「おい、そこ。早く戻れ。」
「「…。」」
黒尾に呼ばれ、ムードもなにも打ち壊されてしまった二人。
「クロのバカ。」
「あんなとこでイチャイチャするのが悪いんだぞー。」
「…好きな人に振られたからって。」
「え、なんで知ってんの、お前。」
-END-
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