音駒バレー部にアイドルがきた
春高、代表として東京では3校出場枠があり、学校が多い東京では代表となるにはそれだけの力が必要である。
代表には選ばれていないものの、古豪であり、現在では、強豪と名の知れた東京の公立高校、音駒高校のバレー部。
名が知られれば知られるほど、注目は浴びるものであり…
『きょうはどうぞよろしくお願いします。』
春高のスペシャルサポーターとして、部員たちと同世代の若い有名なアイドルが取材に来ていた。
まずは、主将である黒尾。
その次は、エースの山本…となるはずが…
『えっと…セッターの孤爪研磨くん。高校2年生にして、音駒高校の…何でしたっけ?』
黒尾になぜか呼ばれた研磨は自然と取材を受けさせられた。
アイドルは、キラキラしていて、とてもじゃないけど容姿が整っている。
なんで、こんな人が産まれてくるんだろう?
研磨は目の前のアイドルを見てそう思った。
イケメンアイドルは黒尾に問いかけ、黒尾は自慢気に『うちの、背骨で、脳で、心臓です。』と言う。
アイドルの顔に気を取られていた研磨は黒尾の言葉に怪訝な顔を向けた。
アイドルはニコニコ、キラキラした笑顔を研磨に向け『あ、そうでしたね!』なんて言う。
それにため息をつく研磨はチラチラと目の前のキラキラしているアイドルに視線を送りながらインタビューを答えた。
「あの人、有名なの?」
黒尾とともに、監督にインタビューをしているキラキラアイドルを見る。
『イケメンすぎるだろ。あんなのと並んだら俺が劣る…』
そう言って黒尾は落ち込む。
研磨は「そんなこと聞いてないんだけど…」と眉間にシワを寄せた。
「遅くなりました!」
「あ…」
「名前だ。」と研磨の表情が一気に和らいだのを黒尾が見て、ニヤニヤする。
「なに。」
『いや…?ホント好きだな。』
「うるさい。」
トボトボと彼女に歩み寄ると名前もまた研磨を見てとびっきりの笑顔を向けた。
「インタビュー終わりましたか?」
隣の黒尾にそう問いかけた名前。
『おー。研磨も受けたぜ。』と返事をする。
それを聞いて「じゃあ研磨も雑誌に載るかもしれないの?」ととても嬉しそうな顔を研磨に向ける。
研磨は堪らず視線を落とした。
黒尾が研磨の耳元で『“可愛すぎてたまらねぇ”って顔してんな。』と小さな声で言うと、真顔で「してないし。クロが思ったんでしょ。」と言う。
そんなふたりを見て名前は首をかしげた。
『あの、イケメンくん。名前は知ってんの?』
「はい。名前と顔は…よくドラマ出てる人なんだよ。5人グループなんだけど、その中でも一番知名度がある人だと思う。」
「へぇ…」
「バレー部に来るんだよって言ったらみんなズルイ!って言ってた…」と苦笑いしている名前は、あまり興味がなさそうだ。
黒尾が呆れたように言う。
『研磨も研磨だけど、名前も名前だな。』
「?」
「意味わかんない…。」
言うだけ言って練習に参加しに行った黒尾の背を見ながら研磨が「ねぇ。」と声をかけた。
「好きなアイドルとか、いないの?…夢中になってるものとか。」
「夢中…そういう研磨は?」
「…ゲーム。」
「あはは。確かに!」
クスクス笑う名前を見て、顔が綻ぶのがわかった。
「アイドルとかには興味ないかなぁ…あ、でも…」
思いついた名前に視線を向けた研磨は「なに?」と問いかける。
名前は研磨に屈むようにジェスチャーをすると小さな声で言った。
「“孤爪研磨”に夢中だよ。」
「…何、それ。」
怪訝そうな顔をしてふいっと視線を彼女とは反対へ向けた研磨。
「あ!」
研磨はこれ以上何を言われるのか、と何とも言えない顔を向けると名前は微笑む。
「好きだなぁと思って。」
「…もう、黙ってて。」
練習に加わった研磨に黒尾が肩を掴む。
『たまんねぇな…好きな子ってのは。』
「…うん。でも、可愛い。」
そう言ってボールを上げる研磨。
黒尾がコートの端にいる彼女に向かって声を上げた。
『名前さーん。研磨がお前のこと可愛いってよ。』
「へ…」
顔を真っ赤にする名前と、黒尾を睨む研磨。
「何、言ってんの。」
『あれ、だめだった?』
部員はいつものことだと微笑ましく見ているが、そんな様子を見ていたアイドルは監督に『青春ですね。』と笑顔を向けた。
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