赤いリボンの猫
合宿を終え、春高に向けて練習を始めた音駒バレー部。
いつものように、早朝の住宅街を歩く研磨は眠いながらゲームをしていた。
起きたてで思考もままならない状態でとぼとぼ歩く彼の姿を1匹の猫が鳴きながら後をつける。
門の前についたとき、研磨は初めてゲーム画面から視線を上げた。
もうついた…。
背後から猫の鳴き声が聞こえる。
振り返った研磨の目に留まったのは、何度か会ったことのある真っ赤なリボンを首に巻いたブルーアイを持つ綺麗な毛並みの猫だった。
「…ついてきたの?」
しゃがみ込み、頭を撫でるとその猫は心地よさそうに目をつむる。
その猫を見て、研磨は考えた。
たしか…前に会ったのは…春だった。
黒尾に毎日毎日マネージャー探しにつき合わされてた日々。
そんな日々に出会った猫。
あ…そういえば、次の日に名前のこと知った。
黒尾が目にした名前。
今思えば…クロが名前じゃない他の誰かをマネージャーにしてたら…
好きになる人なんて出てこなかったかも。
門のところにしゃがみこんでいるプリン頭に赤ジャージの姿を見て、名前が立ち止まった。
猫をじっと見つめて撫でる姿を見たことがなかった名前はレアだ、と言わんばかりにジッとその姿を目に焼き付けていた。
しかし、すぐに研磨の視線が彼女へ向けられた。
「なに、してるの?」
「き、気づいて…」
うん。と頷いた研磨はその猫を抱き上げた。
「可愛いでしょ。」
髪を揺らす研磨は猫を抱っこしながら立ち上がると名前に見せた。
「…うん。」
なぜか頬を赤く染める彼女を見た研磨が手招きする。
不思議そうに名前が身を寄せると頭にポンと手を乗せた。
「へ…」
黒尾にはよく撫でられるが、研磨にはあまり撫でられたことがないため、驚いた名前。
研磨の腕の中にいる猫が名前をジッと見る。
そして、ニャーと小さく鳴いた。
「ありがとう。」
「え?なにが?」
研磨は小さく微笑むと猫を抱いたまま学校の敷地内に入っていった。
撫でられた頭に自分の手をのせて、“ありがとう”の意味を考える名前。
でもよくわからないまま、その背を追った。
研磨は、彼女と出会ったことに感謝していた。
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