頂きもの小説ぅ〜! | ナノ

微睡みの道〔1/7〕



 あれは退却の合図じゃないか、とリンクは言った。あの、法螺貝吹き鳴らすみたいなあれだよ。
 いやどう考えても単なるコッコの朝一番でしょ、とチャットは訂正する。
 数呼吸おいて、確認してみる。なだらかな起伏のある牧草地は静まり返り、あの暗闇に蠢く不気味な光点はどこにもない。
 妖精はゆるゆると息を吐き出した。

『終わった、みたいね。あーあ、今回も長かったこと』

「そうだね」

 リンクは構えを解いて弓を下ろす。同じくほっと一息つくかと思いきや、彼は無遠慮に大欠伸をした。

『こら、みっともない』

「……ふう。自然現象だって。大目に見てよ、これくらい」

 軽口をたたき合っていると、山の端からきらきらした陽光が顔を出し、ロマニー牧場を柔らかい色に染め上げた。「二日目」の朝日は全てを洗い流してしまうような輝きを持っていた。二人は思わず無言になる。 ……願わくば、夜のことはキレイさっぱりなかったことにして、乱射して野に散らばった矢を回収する羽目になんてなりませんように。

『何お祈りしてんの?』

「うん? なんでもないよ。
 さあて、ロマニーに報告しなきゃね。もうウシを守る必要はないって」

 一晩中リンクの足場となり盾となり、八面六臂の活躍をした感謝すべき砦(=その辺に無造作に放置されていた木箱)から軽やかに飛び降り、緑衣の少年は疲れを感じさせない足取りで雇い主の待つ牛小屋まで駆けていく。頭には脱ぎ忘れた兎耳が揺れていた。

『元気良すぎ……』

 うんざりしたように呟いて、妖精もヨロヨロと彼に続く。
 ベールのように降る日差しが二人を溶かし、やがてその後ろ姿は見えなくなる――。

 ミルクロードにて、リンクはこの上なく楽しげに遊び回っていた。軽快な鼻歌をBGMに、三十五歳の自称「妖精さん」を弓で打ち落としたり、意味もなくキータンを呼び出して雑談に興じたりしていた。
「もう、付き合いきれない!」
 などと愚痴をこぼしつつも、チャットは内心ちょっぴり安心してその行動を眺めていた。実際、リンクがはしゃぎまわっている姿を見せるのはかなり久々であった。前々回の三日間で太陽のお面奪還に失敗し、それまでの数十時間にも及ぶ苦労が吹っ飛んでしまったためだ。失敗後の彼はかなり口数も減り、目に見えて落ち込んでいた。こういうときに励ます言葉を持っていないチャットは、彼を案じながら見守ることしかできなかった。そのままずるずると暗い気分を引きずり、次の三日間もあっという間に過ぎ去ってしまう。


[*前] | [次#]
戻る