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 繋がった悦びを感じたのは、きっと俺だけだった。


 初めての子を相手にしたことがないわけじゃないが、そう経験が多いわけでもない。さっき1本だった指を2本に増やし、じっくり時間をかけて慣らしていく。大丈夫、夜は長いのだ。そう焦ることはない。

「ヴェルナー……」

 シャーロットが俺の名をうわ言のように繰り返す。その様子は切なげと言ってもよく、俺の心臓がきゅうと締めつけられる。表情は今や溶けきって、瞳は生理的な涙で潤んでいた。蠱惑的に腰がくねる。その乱れた顔を他の男の前で見せるのだ、と思うとたまらない。嫉妬で気が狂いそうだった。
 俺だけを見ていてほしかった。永遠が叶わないならば、せめてこの一瞬だけ。この夜だけは、どうか。
 俺よりも幾回りも小さいシャーロットの手が、添え木を探す植物みたいに俺の腕を掴む。

「あ……ぁ、ヴェルナー……我慢できないの、早く来て……足りないの……」
「ロッティちゃん、そんなこと言われたら俺――」
「ヴェルナーの……もっと熱くて太いの、ほしい……」
「どこで覚えたの、そんなの……」

 シャーロットの表情が、声が、吐息が、体が、体温が、匂いが、水音が、俺の欲望を煽る。もう限界だった。
 俺ので気持ちよくなってほしい。
 一緒に気持ちよくなりたい。
 シャーロットの上に跨がる。この光景が幻だったとしても驚かない。彼女の瞳の中に恐怖はなかった。

「挿れるよ」

 自分のものの根元を掴んで、彼女の体の中心の潤みにあてがう。シャーロットがびくりと反応して、俺の体に足を絡めてくる。極力ゆっくり、少しずつ、深くしていく。シャーロットの呼吸は上がり、顔は徐々に痛みに耐えて歪んでいったけれど、苦悶の表情にまではならなかった。
 最後まで入れたら、今までにない絶対的な幸福感が俺に訪れた。もう死んでもいい。忘我の状態で、シャーロットの手を取り、交接部まで導く。

「一緒になってるの、分かる」
「……分かる」

 泣きそうな顔で、彼女はか細く答えた。

「動くね。辛かったら言って」

 俺は腰をスライドさせる。奥を突くたび、甲高い声が可憐な唇から漏れ出た。
 シャーロットと、ひとつになっている。
 その事実だけが真理で、他のことなんてどうでもよかった。俺はシャーロットを愛しているのだと、その時強烈に感じた。愛している。世界で、シャーロットだけを。

「好き。大好き。愛してる」

 体位を変える。リズムを変える。
 シャーロットはいやいやをするように、首を振る。君が俺を好きじゃないのは分かってる。でも言わずにいられなかった。

「ヴェルナー……だめ……」

 不意に、彼女が呻いた。俺は慌てる。一人で突っ走りすぎたか? 好きな人と繋がれたのが嬉しくて、独りよがりになっていたかも?

「ごめんっ、痛かった? 苦しい……?」
「駄目よ……」

 涙で潤みきった眼が、俺を見上げていた。

「そんなに優しかったら、練習にならないでしょ……っ、もっと、酷くして……」

 シャーロットの言葉は震えていた。切実な、乞うような声色だった。俺の体もぞくりと震える。
 彼女の泣きそうな声が、自分の内には存在しないと思っていた暗い欲望に、火を点けたのを感じた。

「――ごめん」

 俺は本能の欲求に従い、シャーロットを抱いた。いろんな角度、いろんな深さ、いろんなリズム、いろんな体位で。こんなめちゃくちゃなのは初めてだった。それは抱くというより、犯すと表現した方が正しかった。大好きな人を、世界でただ一人愛している人を、俺は欲望の赴くまま、身勝手に、でたらめに犯した。
 シャーロットの目尻に光るものが伝ったとき、俺はなんてことをしているんだ、と愕然とした。

「……ロッティちゃん、もうやめよう……?」
「やめないで……お願い……」

 シャーロットは必死になっていた。影のために、任務のために、汚くなるために。それが彼女の願望ならば、叶えてあげたかった。俺にできるなら、叶えなければと思った。俺は自分のなかの理想を殺した。
 シャーロットは声を押し殺し、泣きじゃくっていた。この腕のなかで。俺が、泣かせたのだ。彼女が絶頂を迎えて仰け反っても、唇を噛み、腰を動かし続けた。部屋に嗚咽が響いた。幸福感などとうに萎(しぼ)みきっていた。
 俺は2度目の絶頂を迎え、罪悪感という名のどろどろした液体が、ゴムの内部に溢れ出る。
 俺は彼女に、ちっとも優しくできなかった。

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