そこには、長身で真っ赤な髪の欧米人らしき人が立っていた。自分と同い年くらいだろうか。深いボルドーのスーツに艶のある黒いシャツという、この上なく学校にそぐわない派手な格好に面食らう。教員兼来客用の玄関から入ってきたらしく、足元は素っ気ない意匠のスリッパだ。

「そうそう、君。後ろ姿からイメージしたよりも前から見た方がずっと可愛いね」

 男性は流暢な日本語で言い、気取った笑みを浮かべた。
 喜べばいいのか警戒すべきなのか分からず、私ははあ、と生返事をする。どこからどう見ても保護者には見えないし、お客さんだろうか。ただ、まともなお客さんとは思えないけど。
 そこまで考えてはっとする。見た目で判断しちゃいけない、と学んだそばからまた過ちを繰り返すのか。私は疑念を振り払っておずおずと尋ねた。

「あの、この学校に何かご用でしょうか……?」

 男性はにこっと笑う。

「ああ。えっと、君はこの学校の先生?」
「あ、はい」
「君の同僚にニシキって奴はいるかな?」

 ニシキ……西木? 脳内の教員名簿をぱらぱらめくる。西木先生なんて、この高校にいただろうか。どうも思い当たらない。
 その時だった。目の前の男性がお、という顔をした。その目は私の肩越しに後ろを見ている。そちらを見てどきんとした。職員室から出てきたばかりの桐原先生が硬直したように立っていたからだ。
 先生は瞠目し、私などこの場にいないかのように、視線を赤髪の男性に注いでいる。
 そういえば、桐原先生の下の名前って確か――。

「おっす、錦。久しぶりだな」

 そう言う男性の声には、ありありと懐かしさが滲んでいた。

「――ヴェル」

 呆然とした様子で、桐原先生が呟いた。


(続く)
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