nearly equal

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6



「兄さん」

アルがオレを呼んだ。上品な弧を描いていた口元が引き締まり、思わず見とれてしまうくらい整った造りの容貌に成長した面差しが間近に迫り、逞しさを感じる大きな掌がオレの肩を掴む。最後に会った時の、病弱だった頃のアルからは想像もできない力強さに、オレは思わず肩を竦ませた。

オレよりも低かったはずの身長はいつの間にか頭ひとつ抜きん出ているし、肩だって胸板だって、オレより厚く逞しい。
甘くて可愛くて、まるで天使のようだった声も、声変わりを済ませてワントーン低くなった。
幼い頃の面影を残しながらも精悍な青年へと成長したアルはいつの間にか、同じ男のオレでも思わずドキッとしてしまうほど、「男」になっていた。

「あ、あ、アル…っ」

勝手にドキドキしてしどろもどろになっているオレに、アルは更に顔を寄せくる。
オレの視界に入るアルの目、鼻、唇…ひとつひとつのパーツのどこを取っても完璧と思える美しさで、そのパーツを全て収めた顔は、言うまでもなく完璧な訳だ。
それがどんどん近付いてくる。圧迫する勢いで迫ってくる。ある意味これは拷問だ。何が何だかわからないけどドキドキするし、何が何だかわからないけど恥ずかしいし、何が何だか、キョドる。

「いいから謝れ。」
「すいませんでした。」

キョドっていたので、浴びせられた再びの謝罪要求にも思わず素直に謝ってしまってしまう。オレはアルの美貌という訳のわからん拷問に簡単に根をあげてしまった。

「まあ、よし」

そう言って、アルは顔を弛ませる。
息の詰まりそうだった空気は消え、オレはこれでアルの顔面拷問も終わるのだろうと安堵してホッと息を吐いた。そしたらお返しの様に、オレの口元に熱い吐息が吹きかけられる。

「…許してあげる。よく、できました」

幼い頃のように可愛らしいアルの声と共に、ちゅっ、と、可愛らしいアルの唇の音がした。
唇の音がした。
唇の音がした。
唇の。
くちびるの。

「…くちびるのっ!?」

顔面拷問は終了するどころか更に距離を詰め、直接的な接触が可能な距離まで迫って遂には、触った。チュッて。口に。オレに。唇が。アルのが。


つまりキスされた。


「なんで!? なんでここでキス!?」
「よくできたから、ご褒美」
「…ごほうびっ!?」

……盛大にキョドるオレに対して、アルは至って冷静だった。

オレは大きく身震いした。噴き出した汗が空調で冷やされたせいなのか、それとも目の前の弟が笑顔なのに目だけは若干キレ気味な事に恐怖を覚えたからなのか。

やはりアルはオレに対してえらく怒っているようだ。何でだ。

「兄さん…」
「わっ、わぁっ、待てっ」

再び顔を寄せてきたアルを押し返し、拘束から逃れようとオレはもがいた。アルの手はオレのドレスを大きく捲り、剥き出しの太腿を撫で回していたからだ。

「やめっ、アル、アルアルアルっ!」

オレの制止も聞かず、アルの手はスリットの中に潜り込んだ。オレがドレスを押さえてそれを拒んでも、アルの手は無遠慮に上へ上がってくる。

「駄目!駄目だって…!んぐ!」

内股を擽るように撫で回しながら這い上がる手に気を取られていたら、また唇を塞がれた。

何をそんなに怒ってるのか知らないが、兄貴との久方振りの再会にコレはいくらなんでも強烈すぎる。唇を無理矢理割り開いてオレの口内まで入ってきたアルの舌の蹂躙に肝を冷やしながら、オレは少しでも距離を取ろうとアルの腕の中で暴れた。

アルの手は、感触を楽しんでいるみたいにオレの太腿をじわりじわりと這い上がってくる。その先はマズい、マズいんだって。女物のドレスを着てFカップのブラもメロンパンも豚まんも詰めて道化に徹したオレだけどな、さすがにソレを見られるのは嫌だ。こうなったらいっそアルを蹴り飛ばしてでも、と思って膝を浮かせたら、オレの脚の間にアルが膝を割り込ませてきて、完全に身動きできなくなってしまった。馬鹿野郎。

それでももがくオレの抵抗なんてお構いなしで、アルの手は上へ上へと擦り上がってくる。アルの顔が心なしか嬉しそうだ。畜生、オレを辱めるのがそんなに楽しいか。そこまでオレの事怒ってんのかよ…相変わらずオレはそこまでアルに怒られる覚えが全く無いんだけど。

そうこうしてるうちにアルの指先がオレの腰骨に触れた。
ああ、それ以上は駄目だ!――とオレが身を強張らせるのと、アルのデカい掌がオレの尻をわし掴むのと、ほぼ同時だったと思う。

アルは一瞬ピタリと動きを止めた。
あー…バレた。アルは確認するようにオレの尻をさわさわと撫で回し、それからオレの顔を覗き込んできたけど、オレは恥ずかしすぎて目を合わせる事もできなかった。

「……兄さん、コレは…」
「………ちくしょ…笑いたきゃ笑え……」

オレは半泣きでソファーに倒れ、最愛の弟から浴びせられる嘲笑に耐える為、ぎゅっと目を閉じ歯を食いしばった。…でも一向にそんな気配がない。
オレが恐る恐る薄目を開くと、身を起こしたアルが、オレのドレスをおもいっきり捲り上げてやがった。ただでさえ風通しが良かった下半身が丸出しにされ、薄ら寒い。

ソファーに倒れたオレを見下ろし、アルは絶句していた。
…ブラと揃いの女物のパンツ姿のオレに、言葉も出ないみたいだった。


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