nearly equal

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エドワードの通う高校は前期後期の二学期制なので、夏休みに当たる七月八月の休暇が他の公立校と比べて長い。その長さを活用して、生徒の何割かが国外に留学したりする。エドワードは飛行機が嫌いだったし船も苦手だから、わざわざ他所の国になんて行こうと思った事もない。留学なんて関わりない事だと思っていたら、エドワードの弟がアジア圏の国にホームステイに行くと決めてしまった為に事情が変わった。年中仕事で留守がちな両親は例にもれずひと夏戻って来ない。
エドワードは夏休み中、ひとり寂しく自宅に取り残される事となった。

一人で全ての家事を担うのが面倒で、世話焼きで兄思いの弟に「寂しいから置いてかないで」と訴えたら「すぐに寂しくなくなるから大丈夫だよ」とあっさり棄却された。

「僕と入れ替わりに、向こうからも留学生が来るんだって。友達の知り合いらしいんだけど、聞けば聞く程兄さんに似てるんだ。きっとすぐ仲良くなるよ」

どの辺が似てるんだと訊ねたら「殺しても死ななそうなところ」ととんでもない事を言われてエドワードは憤慨したが、弟は笑いながら旅立ってしまった。

「狼には気を付けて」

弟がそう言い残した真意は、定かではない。








煩いのも居ないので夏休み中は不健康で怠惰な生活を送ろうと決めて夜更かしをしているのに、毎朝八時に一本目の電話がかかってくる。消音にしているからそれで目覚める事はないが。

昼前に目が覚めて、とにかく携帯を確認。着信十八、留守電メッセージ十八、メール十件。寝乱れた頭を掻きながら顔をしかめているとちょうどストーカーからの着信が入り、携帯を弄っていた勢いでついつい電話に出てしまう。


「……はい」
『エド起きタ?昼飯いこ、昼飯』

このストーカーは毎回だいたい同じ事を言う。
電話をしてくる内の八割は飯、後の二割は暇だからどっか行こ、とか遊んで、とか。

最初のうちは弟の友達の知り合いだからと大目に見てきたが、よくよく考えるとエドワードが世話をしてやる義理などない相手だ。無関係な相手、つまりは赤の他人。

「…体調悪いから、パス」
『具合悪いノ?じゃあ看病しに行ク』

語学留学と聞いているが、喋りは非常に堪能なストーカー。イントネーションが少しおかしいくらいで、留学の必要なんて全くないくらい、知らなくてもいいアングラ系の知識まで持っている。
ただでさえ見知らぬ異国人なのに、こうも懐かれると不審この上ない。エドワードがその留学生をストーカー認定するまでさほど時間はかからなかった。








「ちゃんと御飯食べないかラ調子悪くするんダ」
「お前みたいに朝からガツガツ食えるか。肥えて豚になれ、糸目」
「チャールストン?」
「…知らねぇから…」

断ったのに、ちゃっかり家に上がり込んでいるストーカー。エドワードが拒もうがなんだろうが関係ない、その辺がストーカー度を更に上げている。最近は物騒だから、男だからって危ない目にあわないなんてことはない。変態は身近にいる。油断大敵事故一瞬!

「エドは無防備すぎル」

虚ろな気持ちで目を泳がせていたら、ストーカーが真剣な眼差しでエドワードを見ていた。驚いて思わず仰け反ると、ソファの背に押し付けられるように覆い被さってくるストーカーがいた。身の危険を感じて撃退態勢を取るが、溜め息混じりに簡単に抱き込まれて、事態はどんどん悪い方向に進んだ。

「誰でも簡単に家に上げちゃ駄目ダ。具合が悪いからっテ容赦する狼はいないヨ?」

声を大にして言いたい。エドワードは同性だろうとお構いなしに牙を剥く狼を傍に近づけた事はない。少なくとも、このストーカーが遠く異国の地からエドワードの傍にやってくるまでは!

「無防備だし、可愛いし、誰かに襲われちゃうんじゃないかっテいつも心配してル」

ストーカーは慣れた手付きで服を脱がし始める。たいした抵抗も出来ないエドワードを丸裸に剥きながら、敏感な箇所を自然な手付きで掠めて否応なしに火を付けていくのだ。

「男は皆狼なんだかラ気を付けてネ、赤ずきんちゃん」

エドワードが赤ずきんなら今頃とっくにリンの腹の中だ。なにしろ出逢った三日後にはぺろりと頂かれてしまっているのだから。


「…赤ずきんは婆さんちにお使いに行って狼に食われたんだぜ?」

親切心で教えてやっても、ストーカーは解っていない様子で「そうだヨ?」と首を傾げた。


――誘われてノコノコとやって来て、一体どっちが赤ずきんなんだか。
男は皆狼だと自分で言ったくせに、エドワードもまた狼だとは思ってもいないに違いない。

異国の地からストーカーがやってくるまで、エドワードの傍に狼がいた事はなかった。どちらかと言えばエドワードは猟師だったので、悪さをしようとする狼はちゃんと仕留めてきたのだ。
可愛い赤ずきんちゃんだと狼が信じて疑わないご馳走は、実は赤ずきんのふりをした猟師でした――新説赤ずきんちゃん、なんて。


エドワードの胸に熱心に所有印を刻むストーカーの黒髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜてやりつつ、猟師は知恵を絞っていた。

夏休みが明けてからもこの狼を傍に留め置くにはどうしたらいいものか、と。



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