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 ふと、過ぎった疑問。
「クロームって、オレの名前知ってるのかな?」
 はじめて会った時からクロームは、オレのことを「ボス」と呼んでいる。オレがボンゴレ十代目候補だと骸か父さんに聞いたからだろう。マフィアのボスになるつもりなんてないのにオレは、あの時から一度もクロームの呼び方を訂正したことはなかったと今更ながらに気づいた。本当に今更だけど、聞いてみようかな。そんなことを考えていたら何の偶然か、買い物の途中でクロームに出会った。
「ボス、こんにちは」
 オレに気づいたクロームが少しだけ微笑む。クロームは、はじめて会ってから随分表情が豊かになったと思う。ふわりとした柔らかい笑顔にオレの心臓が心拍数を上げた。挨拶だと言って頬にキスをされた時とは違う意味で。
「クローム、オレの名前、分かる?」
「……? ボス」
「そうじゃなくて、ちゃんとした名前」
「骸様から聞いた」
 そこまで会話をしてから頭を過ぎった二つ目の疑問。
 オレは、クロームに何を言いたいのだろう?
 オレはボスじゃない? それとも名前を知っているのかが気になっていただけ?
 首をかしげながらオレを見るクロームに視線を返しながら心の中で自問自答を繰り返していると頭に浮かんだ一つの言葉。
 ああ、そうか。とても簡単なことだ。
「クローム」
「なあに? ボス」
「オレのことを名前で呼んでみて」
「ボスは、ボスだよ?」
「そんなにオレの名前を言うのが嫌?」
「……イヤじゃないけど」
「じゃあ、呼んで?」
「……」
「クローム。ボスの命令だよ」
「……そんなのズルイわ」
 ぷう、と子どものように頬を膨らませたクロームの目線に合わせるように少しだけ腰を屈めると、オレの耳に唇を寄せてクロームは、とても小さな声でオレの名前を呟いた。
 カサッとオレたちが持つビニール袋が擦れる音がした。


『名前を呼んで』


(その音と同じで、何だかくすぐったい)


20100724


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