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 彼は突然、現れた。
 犬と千種が買い物に行っている間の留守番役として残された、私一人しかいない黒曜センターに。あっ、と思った時には、もう手遅れで、私は古いソファーに押し倒されていた。目の前に彼の顔が迫る。怖い、と思うよりも先に、綺麗だと思った。切れ長の瞳を縁取る長い睫毛。黒がとても似合う人。だけど、そんなことを考えていられたのは、ほんの僅かな時間で、私の意識は別のところに持っていかれた。スカートの中に入ってきた彼の手が私の太腿を撫でる。
「やっ…! 何するの」
「セックス」
「っ…?! そ、なことしたって、骸様は出て来ないわ」
太腿を撫でる手が止まり、彼は眉を顰めた。私を襲う理由がなくなった彼は、そのまま並盛町に引き返して…、私の考えでは、そうなるはずだった。はずだった、のに…。

「別に構わないよ」

彼の言葉に私は目を見開く。行為を再開させた彼の手が私の下着を足首までずり下げて、人の目に触れることのないその場所に彼の指が埋め込まれた。痛みと言葉に出来ないような感覚が私の身体に走り、声をあげる。それは自分のものとは思えない声だった。
「ふ、ぁっ…やあぁ…!」
いつの間にかブーツと、その下に履いていた黒いハイソックス以外全て脱がされていた。包み込むように胸に触れた掌と肌に吸い付く唇の感触。痛みとも擽ったさとも違う刺激が私の理性を崩そうとする。訳が分からないまま、流されるままに行為は進み、差し込まれた熱に、私は思わず彼にしがみ付いた。
「ねぇ、君の部屋ってどこ?」
「ふ、え…?」
「ここ、狭い」
急に動きが止まり、何事かと思えば、ソファーに対するクレーム。だったら最初からこんな場所ではじめなければ良いのに、しかも、このタイミングでそれを言うなんて…。彼のマイペースさに呆れていると身体を持ち上げられた。彼は本気で場所を変えるつもりらしい。私が自分の部屋のある方向を指し示すとそれに従い、私の部屋を目指す彼。
「どうして、こんなことをするの?」
「君としたかったから」
「どうして私なの? 女の子なら、私以外にもたくさんいるでしょう?」
「何で他の女を相手にしなくちゃいけないんだい」
呆れ顔の彼の言葉に首を傾げると、肩を押されて私の身体はベッドに沈む。
「だってセックスは好きな女とするものでしょ」
「えっ…あッ、」
再び挿れられた彼自身に何も考えられなくなる。彼の言葉の意味を理解するためには、時間と冷静さが必要だわ。だけど今の私は、そのどちらも持ち合わせていなくて。


『彼は順番を間違えた』


(つまり、何が言いたいの…?)


20100306


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