text | ナノ
 スーツをきっちりと着こなしたディーノが立っていた。
「お手をどうぞ。俺のお姫様」
 にっこり、と微笑み、クロームに向かって手を差し出す。クロームもまた、ディーノと同じようによそゆきの装いをしていた。ディーノから誕生日プレゼントとして贈られたドレス。夜空のような紺色。シックな色だが、何重にも重なったレースや、ところどころにあしらわれたリボンがふんわりとした雰囲気をかもし出していた。まるで彼女自身を表したような。しかし、それは当然のことであった。このドレスはディーノが知り合いのデザイナーに頼み、彼女だけのために作らせたものなのだから。
「よく似合ってる」
「あ、ありがとう」
 クロームは恥ずかしそうに目を伏せながらお礼を言った。ぐい、とクロームの腰を引いて耳元に吐息交じりの声でディーノが囁く。
「このまま攫っちまいたい」
「……っ」
 くすぐったさと恥ずかしさからクロームは頬を真っ赤に染めながら身体を震わせた。お酒なんて飲んだことがないのにクロームは、酔ったような気持ちになる。ディーノはクロームの様子を楽しそうに眺めながらくすり、と笑みを漏らした。
「でも“今は”我慢しよう。お楽しみはディナーの後だ」
「え……?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言い、ディーノはクロームの手を引いた。


『お楽しみはディナーの後で』


20131205


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