二匹目

一昨日の夜は、夜中にシティの宝石店まで盗みを働きに行っていた。

所謂ところの強盗であるが
フェイタンに言わせれば『しょうもない仕事』らしい。
(そんな小さい仕事で小銭に稼ぐヤツの考えが分からないね。オマエはいつもそうよ。依頼された殺しで小銭を稼ぐような真似、ワタシなら恥ずかしくてできないね。)

帰ってきた物音で起こされたからか
酷く機嫌が悪く
おまけに酷く口も悪かった。

疲れていたし、あまりにも腹が立ったので
ついつい机に置いてあった灰皿を投げつけてしまったのだ。

その後が大変なことになることは重々承知しているので
普段ならばそんなことはしないのに
何故誤ってしまったのだろう。

勿論、フェイは例に漏れず大暴れだったし
家具はめちゃくちゃに壊され
悲惨な状態になったリビングで
足は折られるわ手首も腹も裂かれるわで
大変な騒ぎだった。


フェイのタチが悪いところは
私が苦しんだり痛みに顔を歪めたりすると
ますます興奮して手がつけられなくなるところである。

普段から人の血を見ていたいタイプの人間だし
理由がなくてもこじつけて手を出すのに
この前のような
『まっとうな理由』で傷つけることができるタイミングでは
手加減や容赦などするわけないのだ。


朦朧とした意識の私に覆いかぶさって果てたフェイは
その後興味なさそうにシャワーを浴びに行き
残された私は治癒をしながら
どうしたらフェイを苦めて殺せるか考えた。


起きたらすでに夜で
荒れた部屋を片付けろ、と言うフェイに
従順に従う自分にも腹が立った。




そんなわけで、今の私はかなり疲れていたし
コルトピと話しながらも寝そうになっていた。

コルトピとの話は途中から脱線して
ノブナガの話になっていた。



だから、僕は言ったんだよ。

髪を洗えって。

そしたら、長いから面倒なんだって。

どのくらいの頻度で洗ってると思う?

4日に1回だよ。

それを言うなら、僕だって髪が長いよ。

でも僕は2日に1回。


………ねえ、聞いてる?


慌てて目を開けると、コルトピは
もういいよ、とばかりに目を逸らした。



言い訳ではないけど、本当に眠かった。



だから、シャルナークが呼びにきたときは心底行きたくなかった。


元来、人の血や死体を見るのが大の苦手だった。
私は死体を見ると、蛆虫と腐敗臭を連想してしまう体質なのだ。

フェイが拷問したあとの地下牢なんて
とても見れたものではないし
そもそも地下牢自体行く気がしない。


だから行きたくないんだって。


シャルに手を引かれて
無理やり連れて行かれるが
足は鉛のように重かった。


随分久しぶりに見た地下牢の扉を開けると
鎖に繋がれた女が此方を見ていた。




死んでいる様子はない。
というより傷つけられた形跡もない。

女は黒く長い髪を肩まで伸ばした
印象的な目をする、少女だった。



あなたはだれ?


開口一番、私の方を見ながら女は言った。


は?


フェイタンを見ると
ナタで地面をトントンと突きながら
肩を竦ませた。


フェイ、こいつ何者だったの?


私が聞くと、女は聞いてもいないのに語りはじめた。
女が動くたびに鎖がジャラジャラと音を立てる。


私はレイラ!
目が覚めて、起きたら突然ここにいたの。
だけど、幻影旅団に会えて嬉しい!
私、幻影旅団のファンだったの!


は?

ファン?


シャルナークは興味深げに彼女を見ている。
一体、この女が何を言っているのか全然分からないし
コルトピも呆気に取られた表情をしていた。


あなたたちのことは
HUNTER×HUNTERって漫画に書いてあるのよ!
わたしは途中までしか読んでないけど
パクノダさんって人が死ぬとこまでは知ってるわ!


私は自分の頭に熱いものが昇るのを認識した。
その女の腹を3発蹴り飛ばした時に
シャルナークが止めに入った。


おい、やめろよ、
こいつから聞きたいことは沢山あるんだ。


私はシャルの手を振り解いて
もう一度女の顔を殴った。


女は泣き叫び、痛い痛いと顔を歪ませる。


お前、パクを殺したのか?


私はその女の胸ぐらを掴んで問い詰めた。


答えないと目を潰す。


女は尚、痛いと喚くだけで
攻撃はおろか、念でガードする様子さえなかった。


私が女の目を狙って
腕を振り上げた時


シャルが私の腕を掴んだ。


やめろ。


私はシャルに視線を向ける。


なんでお前が止める?


パクは死んでない。
さっき電話で確認してる。


シャルは私の目を真っ直ぐ見た。
コルトピはドアの前で、ただ腕を組んで此方を見るだけだ。


シャルに掴まれた腕を無理矢理振り解くと
フェイは私に加勢するように
私の後ろに回り込んだ。


先から、シャルは何故止めるか。
これは団長命令よ。
ワタシが身体に聞く



シャルは手を上げて微笑む。

べつに痛めつけたいってだけなら止めないよ。
だけど、こいつは聞かれたことにちゃんと答えてる。
これが嘘だと思うなら、パクに聞いてもらうのが効率的なやり方だ。



フェイはせせら笑った。


死体になても、パクは記憶を引きだせるね。


コルトピは女に歩み寄って
まじまじと観察し始める。

シャルはそんなコルトピを目で追いながら
フン、と鼻を鳴らした。


こいつに戦うだけの能力はない。
ということは、必ず裏に黒幕がいるってことだ。

その黒幕をおびき寄せるには
健康な状態のほうが簡単なんだよ。


シャルはポケットから取り出した携帯電話を弄びながら
フェイタンを見据えた。


こいつで操れても
人形そのものの形は変えられない。
コルトピですらも。


コルは確かに、と頷いてみせ
わんわん泣く女の足をつついたり、つまんだりしていた。


フェイは興醒めた、という表情で
ナタを床に転がし
私に目だけで行くよ、と言った。


私はシャルとその女を交互ににらみ
踵を返したフェイについていく。


地下牢の階段を登るとき
まだ女が泣いている声が聞こえた。















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