一匹目

本拠地の広場に人が降ってきたらしい。

シャルナークが捕らえたと聞いた。



フェイタンは不機嫌そうにカフェオレを啜ると
運転が荒い、とこぼした。

隣町のショッピングモールまで
フェイタンが一昨日脚をもげたローテーブル(フェイタンにいわせれば私のせい)を探しにきていたが
団長からの電話で中断となった。

そもそもフェイタンは買い物には私1人で行け、と主張していたし
付き合わされた買い物中、他の店を見て回る私に
足止めを食らっていたことにも苛立っていた。

だから切ったばかりの電話がフェイタンの握力で潰されてしまったことに
私はあまり驚かなかった。

そんなわけで私もフロントガラスの前に投げ出した足を下ろせ、と言わなかったし
定期的に放たれる舌打ちにも、文句は言わない。


だから、せめて運転が荒くなることは許してほしいのだ。

許してほしい、というか
私がフェイに許しを請わなければならないのは不条理だけど。



到着した本拠地に団長はいなかった。


代わりにシャルとコルトピがいて
フェイタンに向かって待ってましたとばかりに駆け寄ってきた。


とにかくさ、何者なのか聞いてよ。

その女、俺たちの名前を知ってるんだ。


え?女?


シャルは私には目をくれず
フェイタンにだけ話しかける。


無視されることには慣れているので
何とも思わなかったが
コイツの買い換えたばかりの新車にスプレー缶で落書きしてやろうと心に決めた。



広場はガランとしていて
シャルの言うような事件があったようには到底見えなかった。

フェイは歩きながら
面倒くさそうにもう一度カフェオレをすすり、空いたプラカップを私に手渡した。

地下牢に続く廊下を曲がるシャルとフェイの背中を見送ったあと
コルトピと2人で広場に戻った。




コルトピが言うには

今日の朝から、2人は広場でオセロをしていた。

この前、ノブナガが持ってきたオセロの簡易セットだ。
これが旅団の中で、しばらくブームになった。
何も賭けないが、負けた人間は何かしらの罰が降される。
大抵、顔にいたずら書きをされるとか
寝ているウヴォーの口にティッシュを詰めにいくとか
その程度のものだった。


2人はオセロを楽しんだあと
昼食を取ろうと厨房に行こうとした。

立ち上がったとき、突然広場に眩しい光が溢れた。
気がついたら、広場の中央に女が寝ていたという。



僕を見た時、コルトピって言ったんだ、そいつ。


コルトピは頬杖をついてそう言った。


シャルナークのことも知ってたよ。
シャルには、蜘蛛のタトゥーを見せろってせがんだんだ。


攻撃する素振り?
うん、なかったね。

自分がどうしてここにいるのかも
よく分かっていないようだったよ。


コルトピの話を聞き終わっても
状況がよく掴めなかった。

私達を知っているが
攻撃する素振りはない。

誰がどう考えても怪しさしかない話だな、と思った。


団長はどこに行ったの?


団長は来てないよ。
すぐここに来れるようなところにいないだろうし。

コルトピは持っていたミネラルウォーターを
一口飲んで、そう応えた。


もちろん、僕からすぐに団長に報告したけど。
あ、団長がフェイタンに連絡するって言い出したんだよ。
言っとくけど、僕じゃないからね。



私は広場の天井を眺めながら
不思議なこともあるんだな、と思った。

広場の天井という天井は殆ど崩れていて
人が登れそうなところなんて皆無だからだ。



広場に差し込む陽の光が
今日は一段と眩しく見えた。




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