裁断は縫わずに終わる


殺し方は人に教わらなかった。
というより、殺しは嫌いだった。

わたしの場合、人の死体というのは
あの街で見た
腐敗臭と蛆虫と一体なのだ。
蛆虫を見れば、人の死体を思い出す。
人の死体を見れば、どこからともなく腐敗臭が鼻口にまとまりつく。


だから、今日だって殺した後に
臭いで頭がやられた。


パクが怪訝な顔をしてこちらを見るが
私はその視線を無視した。

進めば進むほど
ゴキブリのように湧いてくる警備員。

殺してもキリがないんじゃないか、と思うし
殺すことが作業のように感じてきた今
ただ臭いに立ちくらむだけで
他には何も思うことなどなかった。


あと何人殺せばいいの?

私は太った警備員に拾った棍棒を突き刺して
勢いよく返り血を浴びる。
生温い体液を浴びて、気分は最悪だった。

パクはいつのまにか銃を消して
直接蹴り上げることでそれを達成していた。


どうかしらね。
まあ、半分以上はもう殺ったんじゃないかしら。


飛んだきた銃弾が顔に当たって痛かった。
ムカついたので、飛びかかってきた人間の顔をもいでやった。

よくもまあこの惨劇を見て逃げないな。

私の呟きに、パクは
女だからでしょう、と呟く。


床が血の海になったところで
私達のノルマは残すところあと3になった。



果敢に撃つ1

悲鳴を上げてへたり込む2

棍棒をこちらに向けて威嚇する3


どうもお疲れ様でした。

パクが1に向けて発泡し
私が2と3に向けて掴んでいた誰かの手首と顔を投げつけた。


ノルマクリア。


お互いの血濡れた姿を見て笑い合い
2人で早く着替えたい、とぼやいた。

来た道を戻るには
死体を踏みつけて歩かなければならなかったが
それがまた苦痛だった。

蛆虫がどこかに湧いていたらどうしよう。
ああ、私って死体が嫌なんじゃなくて
蛆虫が嫌なんだな、


外に出ると、やっと吸い込めた新鮮な空気に
心の底から安堵した。

そこら中にへばりついた血は
固まってパラパラと飛沫になり、地面に落ちる。

車に向かう途中で、正面口から回ってきたと思われるフェイタンとフィンクスに遭遇し、合流した。

そっちはどうだった?

フェイタンは
まあまあね。
と答えた。


建物の4方向からそれぞれ奇襲し
全員ぶち殺せば
1番最上階にあるお宝の警備だって手薄になる。

どんなガードが敷かれているのか知らないけど
それは団長の仕事なので興味はない。


まもなく駐車場に到着するというところで
フィンクスの携帯が鳴った。


ああ、今いるよ。うん。まじか。向かうよ。おう。じゃあ、後でな。



誰ね。

フェイタンが傘を開いたので
3人がそれを避けた。


ああ、シャルからで
こいつと俺は、戻ってポイントBをフォローして欲しいんだと。


えー私?

やっと休めると思ったのに。
パクとフェイは、そのまま歩みを止めずに車へ向かい、私とフィンは踵を返して
血生臭い建物へと引き返した。



ポイントBは、駐車場の反対側なので
相当歩かなければならない。
フィンクスが走り始めたので
私も仕方なくそれについて行った。

風を切って走るのは気持ちいい反面
速さに目が追い付かないので
前方を確認できない。

目を閉じて走っているようなものだ。
そのため、実際に私達は目を瞑って
耳、鼻、そして風に触れる触感などで
視力を補って走る訓練をする。 


小さい頃はただやらさせれていた訓練は
実戦で大いに役立っている。
そんな日が来るとは思っていなかった。

ものの数分で目的地に到着し
フィンクスは裏口から侵入した。
私もそれに続くが
中は既に惨劇が繰り広げられた後で
生存者は見たところ確認できなかった。

念のため、シャルがポイントBと名付けたエリアを隅から隅まで見て回るが
どこも同じような状況だった。

厨房は全域がポイントBとなっていたが
コックのような者が束になって床に捨てられているだけで
変わったところは何もない。

おかしいな。

フィンクスは黙って指の関節をバキバキと鳴らし
私も適当に相槌を打った。

シャルに電話しなよ。

フィンクスはうー、と言っただけで
携帯電話を出す素振りは見せない。


あー、なんか、不完全燃焼だわ。


フィンクスは小さく身震いして
歩みを止めた。

何?

いや、だから不完全燃焼だっつの。

は?

フィンクスのジャージは
足の部分が血で染まっていて
また蛆虫を連想してしまう。

フィンクスは突然私の肩を押して
体全体を床に叩きつける。

痛!何すんの?

だから、不完全燃焼。


床に組み敷くと、乱雑に髪の毛を引っ張って
上半身を起こされる。


痛いっつーの!
なんなの?

もう無理だから、ちょっと頼むわ。

ジャージを下ろして
下着越しに剃りたったそれを見せつける。

顔の前に突きつけられたそれを見ても
私は何故か蛆虫を連想してしまった。


いや無理。なんで?


フィンクスは私の頭を無理やり押しつけて
やれ、と小さく呟いた。

フェイタンと毎日やってるだろ?
同じことじゃねえか。な。

言葉の節々に息が漏れて、気持ち悪い。


臭いし無理。
ってかフェイタンとやってないし。
痛めつけられてるだけだから。


フィンクスは下着をおろして
生身になったそれをなお私の顔に擦り付けた。

早く咥えろよ。

そう、じゃあやってもいいけど
フェイに殺されるよ。

私が下から睨みつけると、フィンは少し考えた風で、私の頭を離した。


なんだよ、つれねぇな。


フィンクスは下着とジャージを着直して
また関節をバキバキと鳴らす。


また面倒くさくなって
わたしは床にどさりと身体を倒れ込ませた。

ああ、血生臭い。

きっとこのカーペットの下には蛆虫が湧いているんだ。


近くでフィンクスの粗い息遣いが聞こえる。


フィンクス、死体でも性病菌は生きてるんだよ。

私が目を瞑りながらそう彼に投げかけたが
定期的な息遣い以外、返答は返ってこなかった。


男の人って大変だな。

死体にも発情するんだから。



フィンクスの携帯から
着信を知らせる音が鳴っている。




その音を聞きながら、カーペットの下の蛆虫を想像した。










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