ローくんと来たのは雰囲気のいいおしゃれなランチカフェ。
店の雰囲気に負けず劣らずおしゃれなメニューはどれもおいしそうで、散々悩んで、オムライスを頼んだ。ローくんはカレーライス。


『わ、見て、旗がついてるよ。可愛い』


運ばれてきたオムライスには小さな国旗が立っていて、それを喜べばローくんがカレーをさっそく頬張りながら鼻で笑う。


「おまえがガキに見えたんでつけてくれたんじゃねーか」

『そんなわけないでしょ、こう言う仕様だよ』


笑われたのは腹が立ったけど、それすらも何だか懐かしくて、まあいいやと思えた。


『そう言えば、昨日のことなんだけどね』

「あ?」

『昨日、私どうやって帰ったのか覚えてなくって…ローくんと一緒だったよね?』

「ああ、有難く思えよ」


昨日、店先で友達やペンギンさんたちと別れたあと、私はなぜか酔いが回って、千鳥足の酔っ払いになってしまったらしく、ローくんが一緒に家まで帰ってくれたのだと言う。


「酒臭ぇおまえをベッドに放り込んで、何の作り置きもねえ台所にメシまで用意して帰ってやったんだ」

『う、す、すみません、ありがとうございます』

「そう言やこれも預かってたな。返す」

『あ、鍵…』


そう言えば鍵を閉めた覚えもないのに出かけるときは施錠されてたっけ…私ったら昨日そんなに酔っていたのか…。


『ローくんごめんね。ほんとにありがとう』

「別にいい。気にしてねえ」

『ローくん…』


ああもう、本当にどうして、優しすぎる。
もしもこれがあの人だったら、酔った私を介抱するわけもなくきっと放置するだろうに。


「名前? どうした」

『う、ううん、何でもない』


ローくんが傍にいなくなって、寂しくて。だけど私にはどうにもできなかったから我慢して、ようやく寂しいのに慣れたと思ったら、あの人が現れて。
最初から誠実な人じゃないのはわかったしやめたほうがいいのも気付いてたのに惹かれて落ちて、また寂しくなって。
その寂しさにもやっと慣れてきたって言うのに、また、これ。


「おい、昨日のことならほんとに気にしてねえよ。おい、泣くな、名前」

『あれ、やだな、何で…ごめん、まだ酔いが残ってるの、かな…』

「名前…」


ぽろりぽろりと零れてきた涙をハンカチで拭うけど、すぐに意味がなくなりそうだ。
ローくんの大きな手が頭を撫でてくれるから、あとからあとから涙が止まらない。
そんな私に追い打ちをかけるように、視界に入った鮮やかなピンク。


『ドフィ、さん…?』


よく磨かれた窓から見える目を引く桃色は、間違いなく大好きなドフィさん。
猫背な彼のかたわらには、女が見てもうっとりするような綺麗な女性が寄り添っていた。
私は彼の恋人ではないし、彼にそう言う女性が数多存在することは知っていた。
彼のじゃない香水を漂わせて会いに来ることも、キスマークを付けて会いに来ることもあったし、もはや暗黙の了解があった。
それでも今みたいに、直接誰かとふたりでいるところを見るのは、初めてで。


「アイツ…」


今までたくさんショックを受けて耐性のついてきた私でも、ローくんの呟きが耳に入らないくらいには、また、ショックだった。


『っ、ローくん、ごめん。私まだお酒抜け切ってないみたい』

「は? おい、名前、」

『お金置いときます。ごめん、先帰るね』


ごめんね、と何度か繰り返してハンカチを目元にあてたまま、財布から雑にお金を出してテーブルに置き席を立つ。
胸が裂けるように痛かった。
真っ直ぐに帰るつもりが、店を出たところで、肩を掴まれて立ち止まる。


「名前」

『っ…ローくん…』


追いかけてきてくれたことが嬉しくて、でもバツが悪くて咽ぶ。


「…来い」


ローくんはあくまで優しく私の手を取って、ドフィさんと女性を見かけたのとは違う通りを歩いていく。
ふと後ろを振り返ると、遠くでピンクの塊がじっとこちらを見ているような気がした。あの人が私に気付いて目をやってくれるなんてこと、ありはしないのに。



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