オフにし忘れた目覚ましがけたたましく鳴って、重い頭をかかえながらも身を起こした。
時刻は午前6時半。今日は何限からの講義だったか。
寝ぼけまなこのまま机に置いてある予定表を見ると、今日の日付の枠には午後2時40分、5・6限からの文字。
まだ、寝ていて大丈夫だ。そう確認して、いそいそとベッドへ戻った。


『…あ、れ?』


何で、こんないつもと変わらない朝を迎えているんだろうか。はっきりとまではいかないものの、少しずつ目が覚めてきた。
昨日は友達と日付が変わる頃まで飲んでいて、それで、それで…?


『…無理、思い出せない…』


すっきりしない頭で何をどう考えても無駄だと気付いて、私はシャワーを浴びて目を覚まそうと風呂場に向かった。ゆうべのままの服を洗濯機に放り込んで、温かいシャワーを浴びる。いよいよ覚醒してきた頭を振って、とにかく朝食を作るべく台所に立つ。


『何これ?』


コンロには置いた覚えのない鍋がひとつ。蓋を開けてみれば、なかにはおいしそうな大根粥が入っていた。


『? 何で?』


匂いにつられたのか、弱々しくお腹が鳴る。…まあ、いいか。
誰が作ったのかわからないお粥は、酒に毒された身体によく染みた。
優しい朝食を摂り終えて再びベッドに戻ると、枕元の隣にあるテーブルに無造作に置かれた携帯が光っているのに気付く。
スワイプしてロックを解除すれば、ホーム画面に新着メール2件のお知らせ。
1通目は昨日の夜、ちょうど飲み会が始まってすぐの頃に着ていたもので、内容は…ああ、今日の講義が休講になったとのこと。


『起きなくてよかったじゃん…』


早く確認しておけばよかったと思いながら、もう1通のほうを見ると。


『“ロー”?』


“メシ作っといたから食え。”


『…勝手に携帯触ってアドレス登録したことにはノータッチなの…』


素っ気ないメールに少し笑って、昼からの予定もなくなったことだし、二度寝するには都合がいいと、私はまたベッドに横になった。



ピリリリリ…ピリリリリ…


『ん…ん…?』


時計のアラームじゃない電子音で目を覚ます。ベッドサイドのテーブルのうえで、携帯が鳴っていた。画面にはこれまた登録した覚えのない“ロー”の文字。


『はい?』

《今まで寝てたのか?》


もしもし、でも、おはよう、でもないその一声に呆れつつ、朝は起きたよと返す。


『あ、あとお粥ありがとう』

《ああ、ちゃんと食ったか》

『うん、おいしかった。ごちそうさま』


電話越しでも、ローくんが笑うのがわかって、何だか少し照れ臭かった。私のためにわざわざ作ってくれたんだね。ありがとうお兄ちゃん。


《ところで、今日は休みなのか》

『ああ、うん。休講になったから休み。ローくんは?』

《急患がねえ限り休みだ》

『そう、一緒だね』


時計を見れば、午前11時過ぎ。一瞬、ローくんをご飯に誘いたいな、なんて思った。ねえ、と話しかければ、遮られる私の声。


《10分で着く。メシ行くぞ、用意しとけ》

『っふ、ははっ』

《何笑ってる》

『ううん、何でもない。10分ね、わかった、用意して待ってる』


通話の終わった携帯を充電器に挿してベッドに放って、クローゼットを開けた。
変わらない。ローくんは昔もそうだった。私の考えていること、やりたいこと、いつもわかって先回りして、何でも叶えてくれる。


『あ……』


クローゼットのなか、あの人が初めてくれたワンピースが目に付いた。
恋人でもない人と身体を重ねて…お兄ちゃんが知ったら、悲しむだろうか。それとも怒るだろうか。はたまた。


『軽蔑、されちゃうね…』


ねえ、ひとりっ子の私の、優しいローお兄ちゃん。



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