オフにし忘れた目覚ましがけたたましく鳴って、重い頭をかかえながらも身を起こした。
時刻は午前6時半。今日は何限からの講義だったか。
寝ぼけまなこのまま机に置いてある予定表を見ると、今日の日付の枠には午後2時40分、5・6限からの文字。
まだ、寝ていて大丈夫だ。そう確認して、いそいそとベッドへ戻った。
『…あ、れ?』
何で、こんないつもと変わらない朝を迎えているんだろうか。はっきりとまではいかないものの、少しずつ目が覚めてきた。
昨日は友達と日付が変わる頃まで飲んでいて、それで、それで…?
『…無理、思い出せない…』
すっきりしない頭で何をどう考えても無駄だと気付いて、私はシャワーを浴びて目を覚まそうと風呂場に向かった。ゆうべのままの服を洗濯機に放り込んで、温かいシャワーを浴びる。いよいよ覚醒してきた頭を振って、とにかく朝食を作るべく台所に立つ。
『何これ?』
コンロには置いた覚えのない鍋がひとつ。蓋を開けてみれば、なかにはおいしそうな大根粥が入っていた。
『? 何で?』
匂いにつられたのか、弱々しくお腹が鳴る。…まあ、いいか。
誰が作ったのかわからないお粥は、酒に毒された身体によく染みた。
優しい朝食を摂り終えて再びベッドに戻ると、枕元の隣にあるテーブルに無造作に置かれた携帯が光っているのに気付く。
スワイプしてロックを解除すれば、ホーム画面に新着メール2件のお知らせ。
1通目は昨日の夜、ちょうど飲み会が始まってすぐの頃に着ていたもので、内容は…ああ、今日の講義が休講になったとのこと。
『起きなくてよかったじゃん…』
早く確認しておけばよかったと思いながら、もう1通のほうを見ると。
『“ロー”?』
“メシ作っといたから食え。”
『…勝手に携帯触ってアドレス登録したことにはノータッチなの…』
素っ気ないメールに少し笑って、昼からの予定もなくなったことだし、二度寝するには都合がいいと、私はまたベッドに横になった。
◆
ピリリリリ…ピリリリリ…
『ん…ん…?』
時計のアラームじゃない電子音で目を覚ます。ベッドサイドのテーブルのうえで、携帯が鳴っていた。画面にはこれまた登録した覚えのない“ロー”の文字。
『はい?』
《今まで寝てたのか?》
もしもし、でも、おはよう、でもないその一声に呆れつつ、朝は起きたよと返す。
『あ、あとお粥ありがとう』
《ああ、ちゃんと食ったか》
『うん、おいしかった。ごちそうさま』
電話越しでも、ローくんが笑うのがわかって、何だか少し照れ臭かった。私のためにわざわざ作ってくれたんだね。ありがとうお兄ちゃん。
《ところで、今日は休みなのか》
『ああ、うん。休講になったから休み。ローくんは?』
《急患がねえ限り休みだ》
『そう、一緒だね』
時計を見れば、午前11時過ぎ。一瞬、ローくんをご飯に誘いたいな、なんて思った。ねえ、と話しかければ、遮られる私の声。
《10分で着く。メシ行くぞ、用意しとけ》
『っふ、ははっ』
《何笑ってる》
『ううん、何でもない。10分ね、わかった、用意して待ってる』
通話の終わった携帯を充電器に挿してベッドに放って、クローゼットを開けた。
変わらない。ローくんは昔もそうだった。私の考えていること、やりたいこと、いつもわかって先回りして、何でも叶えてくれる。
『あ……』
クローゼットのなか、あの人が初めてくれたワンピースが目に付いた。
恋人でもない人と身体を重ねて…お兄ちゃんが知ったら、悲しむだろうか。それとも怒るだろうか。はたまた。
『軽蔑、されちゃうね…』
ねえ、ひとりっ子の私の、優しいローお兄ちゃん。
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