「あれ?」
ボールとバッシュの音がきゅ、と響く体育館。その舞台の近くで、小金井が首を傾げていた。何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回す小金井の前を伊月が通りかかって、どうした、と声をかける。
「いや、ここに洗濯するタオルをまとめて置いてたんだけど」
「うん?」
「ないんだよね。1枚も」
「え?」
小金井曰く、カゴいっぱいのタオルを舞台のうえに置いておいたそうなのだが、ふたりの目の前にはそれらしきものは一切なかった。
ごくり。小金井の喉が鳴る。
「なあ、先週も同じことなかった? 確かあんときはツッチーが置いてたタオルが…」
「ああ…そう言えばあったな」
「…もしかしてユーレイ…!?」
「そんな世話好きなユーレイいるか…?」
真剣そのもので言う小金井に呆れ笑いを返す伊月だったが、不意に背後で聞こえた物音に振り向いて戦慄した。
彼の後ろにはカゴに入った新しいタオルが置かれていた。
普通なら何も驚く必要はないのだが、今、自分たち以外の部員は皆それぞれに個人練習をしているところで、カゴを持ってこられる手透きの者などひとりもいない。
そのカゴは、一体、誰がここへ運んだのか。
「……」
「……」
思わず俯き黙り込む。
数秒の間を置いて、ふたりは何もなかったかのようにコートへ戻った。たった今まで休憩をしていたとは思えないほどの汗を掻きながら。
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