色を失くした箱庭は、誰の目に留まることもなく、ただ、静かに静かに朽ち果てて逝った。



テツくんの足取りは迷うことなくある場所を目指していた。
私はただ黙って彼の後ろをついて歩く。誰の目も私たちには向けられない。


『ひと、いっぱいだね』

「そうですね。大丈夫ですか、人酔いしてませんか」

『大丈夫、平気だよ。あ、そこみたい』


男子バスケットボール。
そう書かれた紙が貼られた会議机の向こうには、凛とした、少し気の強そうな女の子が座っていた。マネージャーさんだろうか。
私に少し待つよう言って、テツくんは受付の前に立った。それと同じタイミングで、テツくんの隣に男の子が立つ。ああ、これじゃテツくんは気付かれないだろうな、と思ったら、案の定そうだった。


「はい、ここに名前と学籍番号を書いてね。あ、出身中学と動機は書かなくてもいいわよ。記入任意だから」


テツくんの隣に立った男の子はイスを勧められ、受付の女の子が入部希望用紙の説明をする。テツくんは気付かれないことに慣れているから、何も気にせず立ったままペンと用紙を拝借して、会議机の端で記入を済ませた。
ふと部活名を書いた紙の端に、“マネージャー求ム”の文字を見つけて目を引かれる。


『マネージャー…』

「名前、ダメですよ」

『!』


記入済みの用紙が重ねられているところに自分の分を出し終えたテツくんは、少し離れて待っていた私にそう言った。ほんの少し、眉がひそめられている。


「すみません。でもキミのためでもあるんです。だから、」

『うん、大丈夫だよ。わかってる』

「……」

『帰ろっか。用事、済んだんだし』


鞄を握り直してそう言えば、テツくんは何も言わないまま私の手を取って、来た道を戻り始めた。熱くもなく冷めてもない温度が交わる。


「すみません」


テツくんの小さな声は、周りの音にかき消されて、聞こえなかったふりをした。

ちらりと男子バスケ部の受付を振り返ると、大きくて目立つ髪の男の子が見えた。あの子もバスケをするんだ。そしてテツくんも、また、バスケをする。
素直に喜べない自分を恨めしく思った。



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