title by 愛執
※跡部も樺地も氷帝幼稚舎出身設定


「最近全然来ないですね、苗字さん」


流れる汗をタオルで拭いながら、鳳が呟いた。隣でスポーツドリンクを飲む宍戸がそうだな、と相槌を打つと、めずらしく起きたままの芥川が拗ねたようにこぼす。


「何か、他に面白いこと見つけたみたいだC…」

「ええっ、何だよそれっ」


反応したのは向日だった。芥川と同じように拗ねた顔をして、面白くないと言わんばかりに小さく舌打ちをする。

生徒会の用事で先に練習を終えた跡部と樺地以外のレギュラーメンバーは、着替えを済ませても何となく、部室に残っていた。


「苗字さんて、人見知りされへん体質なんかなあ」


備え付けられたソファに腰を下ろした忍足が苦笑を浮かべてそう言うと、拗ねていた向日が不思議そうに首を傾げた。


「人見知りされないって、何でだよ?」

「何でって…あの子、今年から氷帝へきたんやで。せやのに、もうこんなに、俺らに馴染んどるやん」


忍足の言葉に首を傾げたのは向日だけではなかったようで、その場にいたメンバーが皆、目をぱちくりとさせる。


「馴染むも何もねえだろ?」

「は?」

「そうだよ、帰ってきただけなんだし」

「……すまん、言うてることがさっぱりや」


今度は忍足が首を傾げる番だった。


「…あ、そっか。侑士は中学からうちに入ったんだもんな」

「ああ、なるほどな」


忍足を除く残りのレギュラーメンバーは、皆氷帝学園の幼稚舎からの見知った仲だ。この場にいない跡部や樺地も例に漏れず幼稚舎からの氷帝生。


「苗字も俺らと同じ氷帝の幼稚舎に通ってたんだよ」

「ああ、それで帰ってきただけなんやな。そんときから仲良かったんなら、馴染むも何もないわなあ」

「ま、喋ったのは今年が初めてだけどな」

「…え?」


元幼稚舎メンバーは俺も今年が初めてだと口々にこぼす。
一難去ってまた一難、ではないが、ひと謎解けてまたひと謎。特に目を引く容姿をしているわけでも抜きん出た頭脳を持つわけでもない苗字名前と言う人間を、なぜ皆記憶しているのか。
その答えをくれたのは、半分夢うつつと目を閉じた芥川だった。


「名前ちゃんはずっと跡部といたからねー…」


言い終えて完全に眠りについてしまった彼のあとを鳳が引き継いだ。


「俺が入学したときには、跡部さんはもう有名人でしたから。その後ろに樺地と並んで連れてるんですから、よくも悪くも目立ったんですよ」


頭のなかで、今より幼い跡部の後ろに今より幼い樺地と名前を並べてみる。
なるほど、鳳の言うように、よくも悪くも目立つこと間違いなしの組み合わせだった。


「入学してから来なくなるまでずっと一緒だったよな、あいつら」

「来なくなるまで?」

「小4の後半くらいかな、苗字が来なくなったんだよ。んで、そのあと黙って転校して…」


宍戸によるとその転校は本当に急で密かで、跡部でさえ、彼女の転校を知らず空になった彼女の席を見て呆然としていたほどらしい。


「へえ、そんなことがあったんや…まあけど、苗字さんのこと知っとったから、自分ら人見知りせんと仲良うなれたんやな」

「苗字さんは俺たちのこと知らなかったでしょうから、戸惑ってるみたいですけどね」

「俺は会ったことあるC…」

「ジロー、起きてたのか」

「んー……」


座ったまま寝ていた芥川がむにゃむにゃ言いながら床に崩れると、部屋にいた面々は思わず笑った。
ふと時計を見れば、もうかなり遅くなっている。そろそろ帰るかと、皆各々腰を上げた。
ようやく生徒会の用を済ませた跡部が、未だ明りの灯る部室を訝ってドアをノックするまで、あと、5秒と言うところだった。



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