朝はあなたを連れ去ってしまうから、嫌い。
ひとりベッドでシーツに包まれながらそんなことを思った。ポエマー気取りで馬鹿なことを考えていないで、起きて学校に行かなくちゃ。
怠い身体に鞭打って、私はベッドを降りた。




「あんたも来るでしょ、飲み会」

『え?』


学校に着くなり、友人はきらきらした笑顔で私にそう言った。
何でもなかなか関わる機会のない医学部の人たちと飲む予定が組めたのだが、人数が足りないらしい。…人数が足りないって、それは飲み会と言う名の合コンなんじゃないか…?
そう思いながらも、私は行こうかな、と返事をした。

午前の授業が終わって昼休みが来ると、私はふと彼のことを思い出した。ゆうべ会ったところだし、今日もまた会おうなんて言われることはないだろうけれど、一応予定があるから会えないことを伝えておくべきなんだろうか。別に、恋人同士なわけでは、ないけれど。
頭をかかえていると、タイミングがいいのか悪いのか、彼からメールが届いた。

“夜、行く”

たった、それだけだった。絵文字も顔文字も何にもないそれに対して寂しさも感じなくなった辺り、私も少しは強くなったのかも知れない。
いつもならば飲みに行くくらいの予定なんか蹴って、彼と過ごす時間をとる。だけど何だか無性に断りたくなって、私は普段より素っ気ないメールを返した。

“ごめん、友達と予定があるから、また今度”



友人たちと来たお店はなかなかに素敵なところで。
私とふたりの友人の前には医学部に通う男の子ふたりがそわそわと落ち着きなく座っていた。


「あの、ごめんな、も、もうすぐ来ると思うんだけど…!」

「まさか忘れてるとかじゃないよな、あの人…」


どうやら来るはずのもうひとりが約束の時間になっても現れないことに焦っているらしい。私たちは気にしなくていいよ、とふたりに笑いかける。
ペンギンとシャチと名乗ったふたり曰く、未だ現れない3人目は彼らの先輩で、ほんの少し前まで海外に住んでいた外科医さんなんだとか。
外科医と言えば、小さい頃から何かと世話を焼いてくれた不健康な幼なじみもその道を目指していた覚えがある。
目の前のふたりと友人そっちのけで、元気にしているだろうかなんて懐かしい顔を思い返していると、シャチくんが急にあっ、と声を上げた。


「ローさん、遅いっスよー」

『えっ』


思わず勢いよく振り向くと、そこには8年ぶりに見る幼なじみの姿があった。
目を点にする私と同じように、幼なじみもまた、切れ長の隈の濃い目を点にする。


「おまえ、名前か…?」


端の席に座っていた私のイスの背もたれに手をかけて私の顔を不躾にまじまじ覗く幼なじみ。


『ローくん…だ…』


何だか急に、8年前に戻ったみたいな気分だった。



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