毎回ドピンクに対しては態度と口の悪い私を見兼ねてか、ドピンクは最近、押してダメなら引いてみろ作戦を試みているようだった。
いつもちょっかいを出してくる憎いあいつがいなくて何か物足りない…効果はテキメン…なーんてことがあるはずもなく、私は厄介ごとが消えたのを喜んでうきうきと毎日を過ごしていた。押してダメなら引いてみろってのは勝算があるときに限るんだよ馬鹿め。


「ドフラミンゴが風邪を引いたらしい」


ドピンクの音沙汰がなくなって一週間が経とうかと言う頃、ミホークおじさまがいつもの調子でそう呟いた。


『そう、あの人でも風邪って引けるんだね』

「そうらしいな。あいつには今同居人がいない。使用人もな」

『ふうん、そうなの』

「自分は風邪なぞで寝込んだりせぬとタカをくくっていたのだろうな。鷹の目だけに」

『ごめんおじさま上手くないです。そもそも鷹の目っておじさまのことでしょ』

「精進しよう」


イマイチおじさまが何を伝えたいのかわからなくて、思わずそれで何、と強く聞いてしまった。まあおじさまはそんなこと気にも留めずさらりと大きな爆弾を投下してくれたのだが。


「つまり主に奴の看病に行ってもらいたい」




いくら大好きでたまらないおじさまの頼みでもさすがにそれは…いや、まあ。結論から言うと断れなかった。だっておじさまったら、私が返事をする前にお出かけ用のシャツに袖を通して車のキーをポケットにイン、なぜか用意されていた冷えピタスポーツドリンクのお見舞いセットを持って玄関を出てしまったんだもの。断る暇なんてこれっぽっちもなかったんだもの。


『ドピンク? 生きてるか?』


やたらとデカいマンションの最上階にひとつしかないドアへ放り込まれた私は、もう仕方がないので腹を括り看病するつもりで寝室を探した。
いくつかドアを開けて、ようやく辿り着いたそこにはキングサイズを遥かに超えた大きなベッドがあって、そのうえでシーツの山がかすかに上下しているのが見えた。


『ね、寝てるの? 入るよ?』


静かに近付いて頭の辺りを覗き込めば、サングラスを外したドピンクの顔。眉がないからよくわからないけど、たぶん眉をひそめているんだと思う。


「う…」

『!! お、起きた…?』

「…名前か…?」

『は、はい…』


いつもはからかうみたいにちゃん付けで人のこと呼ぶくせに、どうしてこんなときだけ呼び捨てたりするのかな、もう。別に掠れた声がやけに色っぽいとか、そんな不純なことは考えてない。断じて。


「フフフ…見舞いにでも来てくれたのかァ? いや、それともこの前の仕返しで夜這いに来たか?」

『全力で前者です。それもミホークおじさまに頼まれて、仕方なしに、ね』


軽口をたたくくせに、普段ほどの威勢はまったくなくてむしろ弱々しい響きの声が私の鼓膜を揺らす。仕方なく、だとしても、何だか甘やかしたくなってきてしまう。
私はおじさまに持たされたビニール袋をサイドボードに置いて、ドピンクのおでこに手を当てた。私の手が冷たいのもあるだろうけど、かなり熱い。


『熱は? 測った?』

「いや、測ってねえ。測るもんもねえ」

『体温計くらい買っとけよ…薬は? 何か食べて薬飲んだ?』

「何にもしてねえ…つーかメシ食う気もしねえ」


いい歳こいたおっさんが、風邪ごときで何をしてんだか。
呆れて溜め息を吐いて、私は袋からゼリーと、市販の風邪薬と水を出した。袋のなかの冷えピタが目に入って、先に貼ってやるかと封を切る。眉がないぶん貼りやすいおでこだ。


『ほら、起きて。ゼリーくらいなら食べられるでしょ。食べて薬飲め』

「悪ィな」

『ぜ、全部おじさまからだから。あ、薬、飲めないのとかある?』

「いや、大丈夫だ」

『そう』


ベッドサイドに膝立ちして、ドピンクが身体を起こすのを支えて、ゼリーを食べるのを見届けて。薬と水を渡すと素直に飲んだ。こんな風に弱ってる姿は、大きな子供のように思えなくもない。


『ゼリーまだ残ってるから、冷蔵庫入れとくよ。ついでに飲み物も』

「ああ、ありがとな。……名前」

『何? 薬飲んだんだから、もう大人しく寝て…わっ』


キッチンに向かおうと立ち上がった私は、ドピンクの手によってベッドに引きずり込まれた。熱を持った熱い身体が冷たい私の身体に触れる。何事だ。さっきまであんなに弱々しかったじゃないか。


「おまえが来てくれて嬉しい。ありがとうなァ、名前」

『だ、だからおじさまに言われたからだよ、看病くらいで大げさな奴だな』

「フフ…名前…名前…」


ぎゅうぎゅうと苦しいほどに抱き締められる私の身体。
胸が張り裂けそうなくらいドキドキする。おじさまに抱き締められてもこんな風にはならないのに、ああ、頭までぐるぐる混乱してきた。
たまらない感情に震えていると、ふと異様な熱が脚に触れた。
ときめいた胸は嫌な早鐘を打ち始め、赤らんだ頬は青く褪めていく。


『おいこらドピンク、身体離せ』

「フッフッフッ、弱っててもたつもんはたつらしいなァ」

『このやろ、死にさらせド変態!』


怒りに任せて頭突きをかましたのは、言うまでもない。


変態は嫌いなんだよ!


『ほんとに空気読めよ脳内万年ピンク野郎!!』

「おいおい、読んだ結果がこれだろ? もう素直におれのもんになれよ名前ちゃん」

『誰がなるかド腐れ桃鳥!!』

end..?



long top


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -