父の仕事の都合で両親ともに実家を空けなければならないと決まったとき、私は大事な試験の真っ只中で。ミホークおじさまが快くうちにいればいいと言ってくれて、私はおじさまの家で長い留守番をすることになったのだった。


『ミホークおじさま!』


おじさまの家に居候することが決まった日、私はおじさまの家に着いてすぐおじさまに飛びついたのを覚えている。小さい頃からよく遊んでもらっていて大好きだったおじさまと同じ家で毎日を過ごせるんだと思うと、年甲斐もなくはしゃぎたくなったのだ。


「相変わらず甘え癖が抜け切らんな、名前」

『それはおじさまにだけだよ。嬉しいなあ、おじさまの家にずっとお泊まりしてられるんだね!』


喜びに顔を綻ばせながら落ち着いたトーンの家具でまとめられた見慣れた室内を見回していると、ふとソファに座るショッキングピンクの塊を見つけてそれはもう驚いた。人がいたんだ。
私は慌てておじさまから離れて、ドピンクの塊に頭を下げた。


『す、すみません、人がいるって気付かなくって…お恥ずかしいところをお見せしました…!』


おじさまは喉の奥でくつくつ笑っていて、それがまた羞恥を煽った。お客様がいらしたなら先にそう言ってくれればよかったのに、おじさまも意地が悪い。
ドピンクさんはゆっくりとした動きでソファから腰を上げると、恥ずかしさに俯き気味な私に寄ってきた。この人、おじさまよりずっと背が高い。


「おれはドンキホーテ・ドフラミンゴだ」

『わ、私は名前と言います』

「そうか、名前ちゃんか」

『はい…』

「名前ちゃん。おれの女になれ」

『は…あ?』


あの瞬間、私のなかでドピンクさんはドピンク呼び捨てに降格され、変態のレッテルを惜しげもなく貼られたのだった。




「初めて会った日の名前ちゃんは一段と可愛らしかったな。おれの前で鷹の目に抱きついちまったのを恥じらって、耳まで真っ赤にして謝ってきて…フフフッ、今思い出してもたまらねえな」

『黙れドピンク忘れろ』


私がなぜ忌々しいドピンクとの出会いなどを思い出していたかと言うと、ミホークおじさまの家に勝手に上がり込んできたドピンクが、アルバムを片手に過度の虚言を含む昔話を勝手に話し出したからである。
まったくミホークおじさまったら、いくらドピンクと古い友人だからって、家のスペアキーを渡すことはないでしょーよ。まさかふたりはそう言う仲なの?


「薄気味悪ぃこと考えてねーか、名前ちゃん」

『いいえ全然』

「そうか? …ああ、ちょうどこのくらいのときだったな。おれたちの出会い」

『うわ、ひ、ひどい…顔が死んでる…隈とかえげつないし…』

「試験明けだったんだろ、仕方ねーよ。つーかおれの知り合いの隈のがえげつねえ」


ドピンクが広げるファンシーな表紙のアルバムを覗くと、そこにはげっそりと言う表現がぴったりすぎる私の写真。そうだよ、大事な試験の真っ盛りだったからこそ、ミホークおじさまの家に居候するって選択肢が生まれたんだよ。


「これは寝坊して大学に遅刻しそうになったときのやつだな」

『ええっ、何でこんなんあるの!? 髪ぼさぼさだし服よれよれだし!!』

「フツーに可愛いぜ」

『眼科行って来いよ』

「外科なら知り合いがいるんだがよ。ほら、こっちのは文句なしに可愛いだろ」

『自分の写真見て可愛いなんて言えないでしょ。さっきのよりマシだけどさ』


何枚かの写真を見て、ようやく違和感に気付く。
何でどれも妙なアングルなんだ? 何で記念写真みたいなのじゃなくて日常を切り取ったようなやつばっかりなんだ? 何で写真の私は皆レンズを見てないんだ?
そもそもここは私の実家じゃないんだから、アルバムなんてあるはずがないんじゃないか?


『おいドピンク、ここに私のアルバムなんてないはずなんだけど、これは一体何なの』


飽きもせず違和感しかない私のアルバムを捲り続けるドピンクにそうたずねると、ドピンクはしれっとした顔で答えた。


「これか? これは鷹の目が趣味で撮った写真を焼き増しさせておれが作ったアルバムさ」


本気で通報されたいのか?


『ふざっけんな桃鳥野郎!! 燃やせ今すぐ燃やせ!!』

「鷹の目の奴、イイ趣味してるぜ」

『おじさまのアホ!!』



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