おれがメラメラの実を食べてから、彼女はずっと、何とも言い難い表情をしていた。
怒っているような、悲しんでいるような、曖昧でどんよりとした、暗い顔。


「どうした。言いたいことがあるならはっきり言ってくれよ。わからないだろ」


痺れを切らしたおれが部屋に呼んで問いかけると、ソファに腰かけ俯いたまま、彼女は呟いた。


『どうして、あの実を食べたの』


ああ、やはりそのことだったか。


「…嫌だったか。おれが、エースの力を受け継ぐの」


彼女の隣に腰を下ろして、同じようにぽつりと呟けば、横に振られる細い首。


『嫌なんかじゃない。きっと、それが、一番だったもの。だけど』

「だけど?」

『……つらくはないの…? その炎は、あのひとの…』


言い淀む彼女にも見えるように、ゆるく握った拳に火をまとわせた。
揺らめくオレンジの熱を間近に感じて、ずっと目を合わせなかった彼女がやっとこちらを向く。その瞳には涙が浮かんでいた。


『つらく、ない…? その火を灯すたび、思い出すでしょう。それがあなたを苦しめたりは、しない…?』


彼女は、つらいのだろう。この火にエースの面影を見て、苦しいのだろう。
静かに流れ落ちていく彼女の涙がそう訴えかけていた。


「つらくない、苦しくないって言ったら、それは嘘だな」

『……』

「思い知らされるもんな。エースはもう、いないんだって」

『っ、』

「けど、それでいいんだ」


忘れることなんてありえないから。なかったことになんてできるわけがないから。


「勝手な思い込みかも知れないけどさ。エースの意志を継げた気がして、おれは嬉しいんだよ」


彼女の涙は止まらなかった。
だけど白い腕はおれを抱き締めて、その力強さにおれは確信した。おれの気持ちも覚悟も、飲み込んでくれようとしてくれてるんだって。


「泣かせて悪い。けどおれは、大丈夫だから」


小さく頷く彼女を片手で抱き締め返して、もう一方の手に再び炎を宿す。
もう二度と大切なものは失くさない。奪わせない。誓いを込めて揺らぐオレンジを目に焼き付けた。


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