とある島の繁華街の大通りでの出来事。
気が付いたときには、すれ違うその腕をもう掴んでいた。はっとして振り返る顔は忘れもしない同郷の、お節介女。


「なんでおまえがこんなとこにいんだ?」


イーストブルーの故郷を出て2年になるか、久々に見る姿はずいぶん窶れたように思う。つややかだった髪は傷んで、先程離した腕には痣や傷が並んでいた。


『うそ…ゾロ…?』

「いつ海へ出たんだ? 今は海賊か? まさか海兵だとか言わねェよな」

『あはは、まさか…。同業でもないし、敵方でもないよ』


半ば失笑に近い笑みを浮かべる女に、少し違和感を覚えた。
こいつ、こんな控えめに笑う奴だったか?
大きな声でおれの名を呼んで、傷の手当てをさせろと追い回してきた活発な最後の記憶とは大違いだ。


「…おまえ、確かにあのお節介女だよな?」

『やだなあ、何その聞き方。確かめるんなら、ちゃんと名前で呼んでよね』

「……」

『もう…こんなはずじゃ…会うなんて、思ってなかったのに…』


訝るおれの前で、女は視線をするりと下に彷徨わせ、声を震わせた。ぱたぱた、雨でもないのに地面が濡れて染みをつくる。


「おまえ、」

『ごめん、会わせる顔がないや』

「おいっ! 待てよ!」


言うが早いか、お節介女は行き交う人の波に溶けて消えた。不意の出来事に、おれは追うことすらできずに立ち尽くす。
細い腕を掴んでいた手に残った温もりだけが、一瞬前まで女が確かにここにいたことを証明していた。


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