「団長、仕事だせ」

宇宙海賊春雨の第七師団、団長。それが今の神威であった。
戦いを好み戦いを愛し誰よりも戦いを望む彼は、いつしか宇宙中に名を轟かせるまでの強さにまでなっていた。

「何の仕事?」

「吉原の調査報告だとよ」

「えー、パス。阿伏兎1人で行ってきて」

ついこの間、彼は任務で地球に行った。そこで夜兎の中で夜王と呼ばれる男、風仙が地球の侍に倒される様を見た。
侍。それは誰よりも誇り高い魂を持つもの。戦闘一族でもないただの人間ではあるが、神威はその時から侍というものに幾分か興味を持っていた。

「パス、って出来るもんなら俺もしたいわ」

「調査なんてつまらないから嫌だよ。侍と殺りあえるならまだしも」

殺りあいたい、神威は心からそう思っていた。強い奴と戦うことが夜兎としての自分の生き甲斐。それが彼の信念であった。

「侍かどうかは知らねえが、」

「何がさ」

「この調査、戦うってことは出来るかもしれねえ」

「…侍と?」

「いや、わからん。ただ最近風仙が倒されたことに乗じて、吉原を乗っ取ろうとしている奴らがいるらしい」

「へえー」

「今回の吉原視察は、調査も含め、風仙がいなくなった後の吉原を春雨が管轄するためでもあるそうだ」

「ふーん」

「まあつまり人様のものに手を出そうとしている余所者を片付けてこいってことだな」

「うん、気がかわったよ。じゃあ今すぐにでも吉原に行こうか」

「本当戦いが絡んだら、すぐに乗り気になるよな…」

「取り合えず、怪しい奴を見かけたらぶっ殺せばいいんだね?」

「あんまり派手に殺るなよ」

阿伏兎は呆れたように言うが、その顔にはどうせ暴れるんだろうと書いてあるようであった。そしてそんな心配を他所に神威は1人、侍と殺りあえるかもしれないという可能性に、胸を踊らせていた。















吉原、それは男の欲望のための夜の町。女が自分の身を売る、夜の町。いくら風仙が倒され町に光が差すようになったとはいえ、相変わらずここは治安が悪かった。

「ふーん、相変わらずここは女ばっかだね。強い子を産みそうな奴はいないかなー」

「寄り道は任務を終わらせてからにしてくれよ」

「はいはい」

木の檻の中から誘いかける遊女たちを軽くあしらいながら、神威と阿伏兎は吉原の町を歩いていた。調査、といっても簡単なものでその気になればすぐに片付くのだが、神威がめんどくさがるのと強い奴を探すために寄り道をしたがるせいでまだ何も済んではいなかった。
ふわあ、と神威はつまらなそうにアクビを1つした。正直調査などどうでもよかった。戦える強い侍がいないかだけを期待してわざわざ地球までやってきたのに、ただ歩いているだけなんて暇すぎる
と、その時

「あ、」

「ん?どうした団長…って、あ、」

神威はふと横を見た。その視線の先には一本の暗い路地があった。何のへんてつもない吉原中に何本もあるような路地。しかし神威の目付きは鋭かった。そして阿伏兎も神威の目付きが変わった理由に気がついていた。

「じゃ、行ってくるよ」

「ああ、気を付けて」

そう言い残して神威は路地裏に消えていった。僅かに殺気を放ちながら嬉しそうに楽しそうに





















「つまらないなぁ…」

あの時、この路地奥から感じたのは僅かな血の匂い。戦いの予感がしてやってきたら、案の定そこには吉原を乗っ取ろうとしているらしき奴らが数人がいた。
取り合えずそいつらを半殺しにして拠点の場所を聞き出した。もちろんそいつらは聞き出した後に片付けた。
そして拠点という所に来てみたら確かにそこには乗っ取り軍団がたくさん居て。神威は戦える悦びに浸りながら拠点に乗り込んで行ったわけだが、

「つまらないなぁ…」

再び神威は呟いた。しかしその呟きを聞いているものは辺りにいない。辺りには血の池が広がっており、死臭が立ち込めていた。完全なる地獄絵図。拠点には数百人の吉原に入り浸る奴らがいたが、そいつらはたった1人の夜兎に皆殺しにされてしまったのだ。

「侍ですらなかったし…、弱いな」

神威は退屈そうな顔をしていた。
こういう事は別に珍しいことではない。戦いを求め続けた神威は夜兎の中でも最強クラスと詠われている。そのせいか、自分が理想としている強い奴となかなか巡り会えないのだ。
世間でいくら強いと呼ばれている奴でも、戦ってみれば神威の圧勝。そんなことは今までに多々あった。

「…イコ」

こういう時こそ思い出す。何年も前に出会った幼い少女のことを。誰よりも強い血を受け継ぐ少女のことを。彼女とはあれから一度も会っていない。どこかで生きているという噂すらない。故に今生きているという保証はない。あの力のせいで人よりも命の危機に晒されやすい上に、女だ。おそらく、生きている可能性よりも死んでいる可能性のほうが高いだろう。
ただ、もし生きているとしたら。もし生きていて誰よりも強くなっているとしたら。
神威はふと空を仰いだ。傘の隙間から見える空は、血に染まった辺りとは対照的に青かった。とても綺麗な空だ。

「…会いたいよ、イコ」






(そして早く俺のこの渇きを潤してくれ)


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