※隊士設定


キンッ!!


その瞬間、空気が代わる。鳴り響いた金属音に続いて宙に舞う1本の刀。無音空間にただようのは、その場にいる2人の男女。その姿のみ。


『あっ…!!』

「これで…、俺の99勝目でさァ」






























『あー!また負けたー!!』


そう叫んでソファーにゴロンと寝転んでみた。一気に視界が反転し、体が仰向けになる。叫んだらちょっとはすっきりするかと思ったけど全くの期待はずれ。全然すっきりしない。むしろ更に気分悪くなった。
相変わらず汚い天井だし。ソファーもなんかゴワゴワだし。よくよく考えれば、こんな環境ですっきりするはずがない。


「おーい、人ん家にケチつけるなら帰ってくれますかー?」

『うるさい』

「なに?逆ギレ?イライラしてんなら他所に行ってくれや」

『グチグチ言ってないで。ほら、私は客だよ?茶の1つぐらい出さなくてどうするの。だから銀ちゃんはいつまで経っても銀ちゃんなんだよ』

「家だけじゃなく俺まで否定?てかお前客じゃねーだろ。そんな税金泥棒の服着て仕事もせずにゴロゴロしてる奴を、俺は客とは呼ばねえよ」

『客だって。ちゃんと依頼もあることだし』

「どうせ“どうやったら沖田君に勝てるの?”だろ」

『うん』



そう、沖田君。私の上司であり仲間であり同僚であり先輩でありドSであり。ってドSは関係ないか。とにかくその沖田君に対して私はいつも悩んでいた。真剣勝負にいつも勝てないのだ。勝てない。どうしても勝てない。何回挑んでも勝てない。勝てたためしがない。とにかく勝てない。
だからわざわざ客として万事屋に来てる。かなり前からずっと。だって99敗目だよ!?


『どうしようー…、次負けたら100敗目だよ…。約束、果たさないといけなくなる』

「てかそれってお前が髪の毛を切ればいい話だろ」

『嫌』


私の髪の毛は腰より少し短めで黒い色をしている。普段はこうやっておろしているが、戦いなどの時はさすがに邪魔なので1つにまとめる。どうやらそれが沖田君にとっては気に入らないらしい。とにかく何かにつけては、私の髪を切ろうとしてくる。入隊当初は、高枝バサミやチェーンソーで切られそうにもなった。めちゃくちゃ怖かった。リアルに首ごと切られそうになった。

どうやら私のくくり方、いわゆるポニーテールが駄目らしい。なにしろ昔の土方さんと全く同じだそうで。長さも色も同じ。だから沖田さんは気に入らないんだよ。と、沖田君に対してビビっていた私に山崎君が昔教えてくれた。てかそんなの知るか。髪型ぐらい私の自由にさせてくれや。土方さんと被ってるからって、私が髪を切る理由にはならない

そう強がってはみたものも沖田君の行動はエスカレートするばかり。身の危険が日に日に強まっていく一方で私は軽く鬱になったりもした。そこである日、私はダメ元で沖田君に1つの提案を持ち出してみた。


“私と勝負をしましょうよ。もし、沖田君が私に真剣勝負で100勝したら髪を切ってもいいですよ”


今思えばバカな提案だ。でもその時は命がかかっていた。真剣に考えて出した案だった。私だって隊士のはしくれ。おまけにその当時は一番隊副隊長に昇格したばかりで、自分の力に少し自信を持ち初めていた。いくら沖田君でも100勝はそう簡単に出来ないだろう、そんな風に考えていた。

沖田君の返事はOK。その日から毎日私と沖田君の戦いは続いた。そして、まさかの、99敗目をただいま記録してきたばかり。え。嘘。もう99敗?あと1回負けたら、私本当に散髪しないといけないわけ?嘘だろぉぉぉぉ!!!!これが今の私の心境。


「てかなんで髪切らないの?別に俺はお前、短くても似合うと思うぜ」

『なんかやだ。だって急に髪切ったらなんか失恋したみたいじゃん』

「お前、変な所で頑固だよな」

『そんなことありませんー。あー、なんとしてでも100敗は阻止しないとなー』

「無理無理、お前には」

『むっ、なんでよ』

「そりゃあ、お前の剣の腕前はかなりのものだけどよ、でもやっぱり沖田君とは経験が違う」

『経験ー?』

「そ。実力の差じゃなくて経験の差みたいな。あんたら仕事でいくつもの死線くぐり抜けてきたんだろ?きっとそういうのの経験の差がものを言ってるんだろうな」

『えー、なにそれ。それじゃあ私絶対勝てないじゃん』

「そーいうこと。だから変な提案をしたお前がバカなだけー」

『あ、バカ言った。銀ちゃんがお客様にバカ言った。最低』

「なーにが最低だ。自分のことを客言うなら、一度ぐらい報酬持ってこいてめえ」

『沖田君に勝ったらいくらでも持ってくるよ』

「じゃあ貰えねえな」

『どーいう意味よ』

「そーいう意味だよ」

「ただいまー!銀ちゃーん、今帰ったアルよ!」

「お邪魔します。ってあれ、誰か来てますね」

『ひゃっほー、私だよー』

「あ、佐奈!久しぶりアルな!」

「来てたんですか、佐奈ちゃん。お茶入れましょうか?」

『あ、いいよ。もう帰るから。じゃあね、役立たずな銀ちゃん』

「誰が役立たずだ誰が」

『バイバーイ』




































「よお、佐奈」


万事屋を出て数分。ふと後ろから呼び止められた。振り向くとそこには、


『げ、沖田君』

「どうですかィ、この後。最後の決着でもつけましょう」

『う…』


最悪だ…


























「いいですかィ、佐奈。準備は」

『…いつでもいいですよ』


屯所に戻ってすぐに沖田君と刀を構えあう。う、ついに切らないといけないのか。つ、ついに…。いや、まだ負けたわけじゃない。弱気になるな私。ちゃんと髪もくくったし。よし、なんか気合い入った。頑張るぞ。


「じゃあ行きますぜィ」

『っ…!!』


キンッ!!キンッ!!


刹那、響く金属音。一瞬のうちに降り注ぐ剣劇に私は防戦を強いられる。なんて重い。一撃一撃が私の体力を消耗させる。てか真剣なんだからあんま本気で来ないでよ。怪我しちゃう。

そんな事を考えていたら少し隙が生まれてしまった。しまった、そう思ったときにはすでに遅し。沖田君は私の右腕に峰打ちを食らわせたかと思うと、一気に剣を振った。そして宙に舞う、私の愛刀。あれ、こんな光景さっきも見たな。

いつもはここで終わりだった。沖田君が私の刀を打ち払い、そして私に1勝。そんなことを今まで99回繰り返してきた。しかし今回は、違う。え、違う?

沖田君は私の後ろに回り込んできて、そして、刀を振った。ちょっと待ってそれ真剣。私死ぬから。死ぬから。
もう勝負は終わったものだと思っていた私は、完全に反応が遅れた。そして見る。一閃に伸びた銀に輝く剣筋を。あ、私、死ぬ。






















バサッ
























あ、れ。私生きてる。だけど変。何か変。
おそるおそる後ろを振り向けば、刀を鞘へとしまう沖田君がいた。なんだ、やっぱり何か変。探せ私。早く変なところを探、せ…

あ、分かった。変な所。沖田君の手だ。いや、手自体じゃなくて手周辺。そう、その手にはなにやら黒いものが握られていた。黒くて細長くてだらり、と垂れている。そして嫌な予感がして、私は自分の手を頭へ持っていった。


そして私は全てを理解する。



『な、な、な、な、か、髪ィィィィ!!!!私の髪ィィィィ!!!!』

「責任もって、俺が切ってやりやした」

『嘘ォォォォ!!!!なに、刀で切ったんですか!?髪を!?な、なに考えてるんですかァァァァァ!!!!』

「短髪も似合いますぜ。可愛い」

『なっ…!!』

「お、顔真っ赤でィ」

『ううう、う、うるさいです!!!!』






(俺の手で切ってやりたかった)(死んでください変態)


















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短編に銀さん初登場!


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