佐奈、新しいお母さんは欲しくないか?だなんて回りくどすぎるよ父さん。

父さんは昔から毎日仕事仕事で忙しくて、家族サービスからかけ離れたような人で、いつも帰ってくるのは夜遅く。だから私が小さかった頃は遊んでもらったことなんてなかった。友達のお父さんはいつも優しそうな笑顔でいつも家族サービスをしていて、羨ましいって思ったことなんて数えきれないぐらいある。
でも、私が少し成長して母さんへの反抗も強くなって、父さんの帰りを待てるまで夜更かしが出来るようになった時。そして父さんが家に帰ってきて、色んな話をしてくれた時。

私は父さんが好きになったんだ。

父さんが夜遅くにリビングの蛍光灯の下で話してくれたのは、誇らしい仕事の話や私の知らないたくさんの知識。
その話を聞きながら私は、父さんがかっこいいと思ったんだ。
決して遊んだりはしてくれなかったけど、家族のために立派に働いてくれる父さん。母さんはめったに帰ってきてくれない父さんに愛想を尽かして出ていったけど、私は父さんのもとに残ることを自分の意思で選んだ。もっと色んなことを父さんから学びたいと思ったから。

そして、父さんと2人で暮らすようになってから早3年。相変わらず父さんは仕事第一で、私は1日のほとんどを1人で過ごしている。でも学校は楽しいし、父さんは夜になったら帰ってくるし。だから寂しいと思ったことなんて一度もない。最初はうまくできなかった家事も、さすがに高3になった今では幾分かこなせるようになってきた。

そして冒頭の話に戻る。新しいお母さんは欲しくないか、ってことはつまり再婚ってことでしょ?そんなの私が反対すると思った?
全然、構わないよ。私だってもう子供じゃないし、父さんが幸せになるならそれでいい。

おめでとう、父さん。



































あ、お袋再婚すんの?

学校から帰ったら、何だかもじもじとしているお袋。こっちをチラチラ見てくるので「何?」と聞いたら、「…何でもない」と視線をそらしてくる。しかも何度も。
こういう態度をとる時のお袋は何か隠し事をしている。昔からそうだった。
今から5年前、お袋がやたらもじもじしてこっちを見たり目をそらしたりする日があった。最初は気にしなかったけど、あまりにもしつこいのでイライラしていたら、その日の夕飯の時にお袋は聞いてきた。

「お父さんは好き?」

好きなわけがなかった。仕事もせずに酒ばっかり飲んで、あんな奴。
正直にそう言えばお袋は俺を泣きながら抱き締めた。そして次の日から親父はいなくなった。離婚か、と俺はすぐに理解した。別に悲しいとか腹がたつとかは思わなかった。それほどまでに俺は親父を好いていなかった。
そして冒頭の話に戻る。お袋はあの日と同じように夕飯の時に話してくれた。お母さん、結婚したい人がいるんだけどどう思う?だなんて。いい年して頬染めて。ただ、あの日と違うのは、今度は別れるのではなくて再婚をするということ。

不安そうに俺の表情を伺うお袋に対して、俺は「別にいいんじゃねぇの」と返した。言葉の通りだ。俺だってもうガキじゃないし、何なら自立だって出来る。お袋は今まで俺を育てるために働いてきたし、今から幸せになってもバチは当たらないだろう。

俺はただ、再婚相手が前の親父みたいなちゃらんぽらんじゃないことを祈った。



















へぇー、再婚相手の人にも連れ子がいるんだ。

父さんはそれから新しい母親について、いくらか話してくれた。とても優しくていい人だそうだ。それなら良かった。前みたいにまた愛想を尽かされたらたまらない。
そしてもう1つ心配があった。私の存在だ。相手から見たら、多分私は邪魔なのだろう。好きな人と違う女との子供だなんて。
でも、相手にも連れ子がいるならその心配はいらないはずだ。むしろ、同じ境遇として父さんとの愛が深まるなら、なおさらいい。

連れ子か、仲のいい兄弟になれたらいいな。心の中でそう思った。























引っ越しは明後日だなんて、そんな大切なことはもっと早く言えよな。

何となく、相手方の家に住んだりとか新しい家に住んだりとかで、引っ越さないといけないんだろうとは思っていた。だけど言うのが少し遅い。たった2日で荷物をまとめろだなんて無理がある。
どうやら引っ越し先は相手方の家のようだ。再婚相手は仕事熱心で稼ぎもあり、広い一戸建てに父と子の2人っきりで住んでいるから、部屋にも余りがあるそうだ。人の家に住むだなんてあまりいい気はしない。おまけに相手から見たら俺は疎ましい存在になるだろう。そうとなれば、早く自立の準備をしといたほうがいいのだろうか。

お袋の幸せのためにも。


















私は朝から緊張していた。ちゃんと上手く笑えるかな…。

今日は相手の家族が、うちの家に引っ越してくる日。ちゃんと使っていない部屋をキレイに掃除して、再婚相手の連れ子の部屋として使えるようにした。昨日に再婚相手の写真を見せてもらったのだが、若い茶髪の女の人だった。でも優しそうな人で笑顔も素敵で好印象だった。そして、年を聞けば36らしくて驚いた。36で学生の子持ちって今までどれだけ苦労してきたのだろう。もし25とかで産んでいたとしても子供は小5だ。この人も子供も、ずっと頑張ってきたんだろうな、と写真を見ながら思った。私は苦労人母子のイメージが頭に浮かんだ。


「佐奈、新しいお母さんが来たぞ」

『は、はーい』


今まで苦労してきた人たちに対して、私は優しい人になろうと思った。













荷物は全て引っ越し業者が運んでくれるそうで、俺とお袋は先に相手方の家に行くことになった。ああ、めんどくせぇ。

「ほら、早くしなさい」

へいへい。相手方の家は話に聞いていた通り、確かに大きく立派だった。これを見るだけでも、前の親父のようなちゃらんぽらんが再婚相手ではないということがわかる。これで、少なくともお袋は幸せになれるはずだ。

「やあ、よく来てくれたね」

ドアが開く音がして、男が出てきた。あれが再婚相手。いかにも真面目という雰囲気を醸し出している。お袋のほうへと目をやれば、少し頬を赤らめ恥ずかしそうに笑っていた。

「は、じめまして。私中田佐奈と言いま、す…」

俺は固まった。と、同時にドアの影から顔を出して挨拶をしてきた、こいつも固まった。

何がはじめましてだ。

























う、うそ…

勇気を出してはじめまして、と挨拶をして名前を言った相手は、まさかまさかのクラスメイトで。茶髪に赤い目、そのキレイな顔はまさしく同じクラスの沖田くんであった。

え、私の新しい兄弟って沖田くん?え?

ってか36歳で18歳の子供とか、どんだけ早い出産!?なんて新しいお母さんに心の中でツッコミつつも、改めて沖田くんを見る。うわ、あっちも明らかに戸惑っているよ。

お父さんが「ほら、早く総悟くんを部屋に案内してあげなさい」とか言うけど、てかお父さん説明不足すぎないか。相手方の息子が同級生なんて聞いていないよ。同級生でしかも同じクラスでしかもしかも


私の好きな人だなんて


分かっていたら絶対に、彼の部屋を私の部屋の隣になんてしなかったのに!案内しろって言われても、超案内しにくいよ!

ああ、もう、私、今絶対顔赤いよ。























クラスメイトの中田とまさか兄弟になるなんて考えもしなかった。おまけに部屋を案内するときに会話はなし。普段から同じクラスとはいえあまり会話はしないが、これはさすがに気まずかった。
部屋、ここだから。と彼女は目線をそらしながら言う。もしかしたらと思い「横はあんたの部屋か」と言えば、「そうだけど」とぶっきらぼうに言われ、彼女は自室へ入ってしまった。やべ、嫌われたか。

せっかく近づけたのに。

案内された部屋に入れば、そこは綺麗に掃除がされていた。ああ、あいつが片付けたのか。
何となく、中田の部屋と隣り合う壁にもたれ掛かってみた。




(彼女と近づけるチャンス)




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同居ネタです!一度書いてみたかった!




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