苦い、苦い、匂い
「あはは、」
パンッ、と乾いた音がした。音がしたなんて言うけど音を鳴らしたのは私。
連射連射連射連射、鳴り響く乾ききった音。そしてその乾きとは反対に湿っていく床、赤。うふふ。
私は殺し屋、正義の殺し屋。悪を殺し正義を生かし自らも生き続けるの。幕府?天人?関係ないわ。淀み歪み汚れきった正義を気取るわけでもなく我が物顔の侵略生物とも違う。
私の正義は自分の欲に正直になること。
嘘は駄目よ。偽らずに自由に生きるの。私の欲は簡単に満たされるから、難しいことなんて無いわ。ネタイタベタイアイシタイ、コロシタイ。ね。簡単。
「おい、誰かいるのか」
わあ。おっと危ない。遠くから聞こえる人の声に反応してつい手に握った銃からまた音を響かせそうになった。つらいね。欲を我慢して正義を振るわず身を寄せ隠れるの。ふう。
「……これは、」
この声は知ってる。江戸を護る真選組の幹部、通称鬼の副長土方十四郎サン。みんなからは幕府の犬だなんて言われてるけど私は素敵だと思うな。警察の名を元に正義のために剣を奮い悪を斬る。私も一度やってみたいわ。憧れね。
私だってきっと自分の欲を我慢できたのならこの人達と同じ仕事をしてたハズよ。もう少し我慢強ければ私も誰かから憧れられる存在になってたのかな。嗚呼。
「おい、誰だ」
ピクッ、と心の臓が跳ねた。首筋に走る冷たい感覚。ちょっと考え事が過ぎたかしら。近づいてくる気配にも気づかないなんて、それか私が隠れきれてなかっただけかな。ごめんね、隠れるのには慣れてないの。
「女……?」
『そうだよ、鬼の副長サン』
私が女だったと言うことに一瞬驚きを見せたけどすぐに冷静を取り戻した。さすが。副長サンの視線は私の手、じゃなくて握られた二丁の拳銃。バレちゃったな。
取り合えず首に当てられた刀で自分の首を切っちゃわないように副長サンの方向へと体を動かす。あ痛、ちょっと切っちゃった。まあいっか。生ぬるい血が少し首を伝う。大丈夫死なない死なない。
「……こいつらはお前が殺ったのか」
『ええ、』
「なんのためにだ」
『……さあ?』
なんのためにだ、なんて聞かれたってなんのためにだ?なんのためにだ?そういえばなんで私はこいつらを殺したのだろう。あれ?確か、あ、そうだ、私が殺されそうになったからだ。私も随分殺し屋として名が上がったのね。でも路地裏を歩いてただけで斬りかかってくるなんて酷い話じゃない?
「ちゃんと答えろ。返答しだいによってはこの首斬るぞ」
『正当防衛よ。急に襲われたの』
「正当防衛だ?嘘つけ」
『嘘じゃないよ』
「ならなんでお前、」
無傷なんだ、と彼は続けた。そりゃあ私だってプロよ。こんな剣をかじった程度の輩がたった数人じゃあ傷つけというほうが無理な話。
『私を殺す?』
出来るだけ無邪気な笑顔で聞いてみた。それはもう天下一級品の。まあ染まるほど浴びた返り血が笑顔を台無しにするけど。
「殺されてえのか」
私を殺すのなら私が殺すまでよ、と呟き銃を構えた。副長サンの体が僅かに動く。でもそれは一瞬だけ。銃を向けられても無表情だなんてやるじゃない。
彼の剣が先か私の銃が先か。それはもちろん剣だろう。何故ならもう彼の剣は私の首に当たってるから。血まで出てる。
まあそんな差なんて大したことではないけど
「っ、…………!」
パンッ
また乾いた音が響いた。血飛沫が飛び散る。綺麗ね。
ドサッ
死体と化した男が倒れた。大丈夫よ、回りにあなたと同じ境遇に合った仲間がいるから。安心して朱の海へと飛び込みなさい。まあ供養とかするわけじゃないけど。
「……どういうつもりだ」
『なにが?』
「なんで助けた」
『ふふ、』
そう、鬼の副長サンは生きてる。そこで今死体へと成り上がった男は見知らぬ他人。
『もしかして気がつかなかった?』
「…………」
黙るところを見るとどうやら気づいていなかったようだ。私に気をとられ過ぎていたのね。自分の命が狙われていたのに。
そして死体へと目をやる。気配の消し方から見てただ者じゃあないのだろう。私だって副長サンの後ろで動いた影を見逃していたら気づかなかった。危なかったね副長サン。もしかしたら
『死んでたよ、あなた』
「…………」
『どうしたの?』
「なんで俺を助けたんだ」
『ん?』
「さっきの状況分かってるだろ。自分の命が危なかったのに」
『んー…、なんでだろ』
私は彼が刀を構えるのを解いたのを見て立ち上がった。パンパンと尻に付いた汚れをはらう。
『まあ、あなた顔はカッコいいもんね。傷ついたらもったいないわ』
「はっ、言ってろ」
『で?お礼は?』
「何がだ」
助けてあげたお礼、と続けるとバカな事言うなと吐き捨てるように返された。無粋ね。私は命の恩人なんだから少しは感謝してくれてもいいでしょ。
出会いは硝煙のにおいと共に
(よし決めた、私を貴方の仲間にしてよ)(ぶっ殺されてえのか)
――――――――――――
お題配布サイトリコリスの花束を様よりお題をお借りしました
何を書きたかったかがよく分からない。
消化不良だなあ……
page 21/22
prev|next
戻る