『あ、土方さん』


げ、という声が喉奥から漏れた
なんでよりによってここで会うんだ

時は丑三つ。草木も眠り辺りに人気はない。俺もそれを知っていてこの道を通ることを選んだ


『どうしたんですか?顔赤いですよ?』

「……なんでもねえ」


ひょこっと顔を覗き込まれて一瞬だけ思考が止まる
なんでそんなことこうも簡単にやっちまうんだこいつは

別にこいつとはそんなに面識があったわけではない
俺は警察でこいつは行きつけの食堂のアルバイトで

客と店員、単にそれだけの関係だった

だけど、


















『いらっしゃいませ。いつものでよろしいですか?』

『マヨネーズ、そんなにかけて大丈夫なんですか?』

『毎日お仕事大変そうですね』

『ありがとうございました。昼からも頑張ってくださいね』




















柄にでもないがいつの間にか惚れていた
会いたい、と思うようになった

まあ、その、つまり、年には似合わねえが、恋をしたわけだ

気配りが出来て時折見せる柔らかい笑顔

いつしかこいつを目当てにあの食堂へと毎日通うようになった
日数が経つにつれて少しずつ会話も増えていった
そのたびにするたわいな会話が楽しいと感じるようになった

どうやら俺はすっかりやられちまったようだ


『土方さん?』


名前だって知った。中田佐奈。それがこいつの名前だ。年はまだ若く江戸には上京したばかりらしい

って俺は変態か


「いや、俺は大丈夫だ」

『そうですか?』

「それより中田、なんでこんな時間に外出てんだ」


ここは昼間ですら人通りが少なく事件もよく起こる通りだ。そしてこんな夜なら尚更危険。少なくとも若い女が一人で歩くような道じゃねえ。


『わ、私は……』

「?どうした、」

『え、あ、私こそ大丈夫です。それより土方さんこそ、凄いお酒臭いですよ』


柔らかく笑う。くそっ、


だからこいつには会いたくなかったんだ。今日は確かにスナックへと行った。だがそれは本心ではなくあくまでも接待としてだ。

そしたら近藤さんととっつあんが予想以上に盛り上がって収拾がつかなくなり、明日仕事な俺は先に帰ることにしたわけだ


「ちょっと、仕事柄飲みに行っててな……」

『そうなんですか。くれぐれ飲みすぎには気を付けてくださいね』

「ああ、」


そしてまた笑った。しかし違う。何かが違う。いつもとは違う笑い方。少し寂しげで、そして、


「おいっ!」

『え、』

「なんで、お前、」


泣いてるんだ、と続ける

そう、こいつは泣いていた。ポロポロとその黒い目から溢れ出す涙。悲しげな表情。


『ち、違うんです……!私は別に何も、………大丈夫ですから…』


ぐずっ、と鼻を鳴らして着物の裾で拭う。そして無理矢理な笑顔を見せた。違う、俺はそんな笑顔が見たいんじゃない

嘘つけ。何が大丈夫です、だ。そんなに泣きやがって。


「中田……、」

『そ、そっ、それじゃあこれで!』

ダッ!

「あっ!おい待てって!!」

ガシッ!


走り出した中田にとっさに腕を掴んだ。振り向いた顔は相変わらず涙で濡れていた


「ちゃんと説明しろよ」

『…………』

「説明しろって!」


つい語調が強くなる。ビクッとこいつの体が揺れた


『…………しゅ、手術なんです……』

「は、」

『ら、来週に………』

「手術……、だと?」

『はい、それで、私、……本当は今日にでもすぐに、入院しないといけないんです…………』


最後の入院という言葉は消え入りそうな声だった。入院?なんでだ、どこか調子でも悪いのか、そう聞きたかった。だけど言えなかった。


『べっ、別に、成功率は低いわけじゃあないんで、すけど……、やっぱり……、怖くて。それで私………勝手なんですけど……、』



土方さんに会いたかった。



と、そう続けた。って、は?俺に?会、いたかった?

時間が止まったように感じた。目に映る景色の全てが白黒になった。え?今なんて言った?
涙はもう流れていなくて、顔を紅く染めて俯いて、

まじか


『あっ…、ごめんなさい!急に変なこと言って……。い、今のは忘れてください……!』

「…………」

『め、迷惑ですよね……。こっ、んな夜中に待ち伏せて、変なこと言って……』


脳内がかき回されるような感覚。ついでに視界もかき回される。

嗚呼、嗚呼、嗚呼、








































ギュッ!



『え、あ、あのっ、…………ひ、土方さん……?』

「…………」

『あの、あ、のっ………!』

「……………好きだ」

『、っ…………!!』


気がついたら手を伸ばしていた
気がついたら体が動いていた
気がついたら口から言葉が出ていた
気がついたらとっさに行動に移していた


「……好きだ、ずっと前から、お前の事が」

『…………わ、私もです』



気がついたら恋に落ちていた




(おい、手術代いくらだ。払ってやる)(えっ、あ、あの別に大丈夫ですから!)













――――――――――――

は、恥ずかしすぎる!!

なにこれ書いてて恥ずかしかった!!

初めてお題じゃなくて、自分でタイトルを考えて書きました
あ、だから駄作なのか

土方さんのキャラがなんか違いますね
ごめんなさい


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