それはそう確かに俺に昔の彼女、佐奈であった。

会うのはいつぶりだろうか。武州を出て早数年。随分懐かしい顔だ。


「お前……、なんでここに?」

『なんでってもなぁ。あ、でも江戸に来たのは去年だよ』

「去年?」

『うん、仕事の都合で』


本当に懐かしい。そして何も変わっていない。顔も体も声も口調もまるで全てがあの時のままのようだ。唯一変わったところと言えば身長が少しだけ伸びたところだろうか。

あと前よりも数倍強くなっている。辺りに横たわる野郎どもを見ても、本当にこいつ一人でやったのが信じられないぐらいだ。前はここまで強くなかったはずだ。


『でも、本当に来てくれるとは思わなかったな』

「なにがだ」

『ほら、手紙。届かなかった?河原に来てくれーってやつ。土方さん忙しいからもしかしたら来ないかなって思ってた』

「なっ、あれはお前からだったのか」


あれは果たし状ではなく佐奈からの手紙だったのか。それにしては素っ気なかったな。まあこいつらしいといったらこいつらしいが。

じゃあこいつらは単に一人の俺を見つけて挑んで来た奴らか。確かに今時果たし状は少し変だと感じた。
単なる不意打ちをするとは意気地のない奴らめ。
後で近藤さんに連絡して全員しょっぴかなくてはな。

でも今はそれよりこっちだ。


「このへんに住んでるのか」

『ううん、隣町。ここからちょっと外れたところの』

「そうか」

『まあ離れてるし、知らなくて当然かな。でも土方さんの噂はよく聞くよ』


噂、とは真選組でのことだろうか。


『凄いね、警察って。正義の味方じゃん』

「別にそんな綺麗なモンじゃねーよ。お前は今何の仕事をしてんだ?」


さっきこいつは仕事の都合で江戸に来た、と行っていた。でも確かこいつは武州ではアルバイトだったはずだ。アルバイトが江戸に来るなんて考えにくい。新しく定職にでも就いたのだろうか。


『私?』

「ああ、」

『あんまり誇れるような仕事じゃないけど、』

「なんだ」

『風俗だよ』

「なっ……!!」

『ははっ、嘘だよ。う・そ。ほら、今日ってエイプリルフールじゃん?』


そういえばそうだった。今日は四月の一日。今日から新年度だ。近藤さんも何だか忙しそうだった気がする。

しかしいくら嘘をついていい日とはいえ風俗はないだろ、風俗は。仮にも昔の彼氏に対して。一瞬でも真に受けた自分が恥ずかしい。佐奈はこういうちょっとしたいたずらが好きだった。昔から。やっぱり根本的なところも変わってないんだな。


『あ、怒らないでね。ちょっとからかっただけだから。本当はただの正社員なの。ごめんごめん』


ごめん、とそう謝りながらも少し嬉しそうな顔をしている。そんなに俺が引っ掛かったのがおかしいか、くそっ


「で、なんでお前は俺を呼び出したんだ?」

『えっ?……それは、』

「はあ……。俺たちはとっくの昔に終わってるんだ。今は何の関係もない。また元に戻ろうとも思っていない。俺は明日も仕事で忙しいんだ。こんなことに構ってる暇はない」

『っ…………!』

「なんて、嘘だ」

『えっ』

「仕返しだバカ」

『うー……』


仕返し代わりに嘘で返せば佐奈は少ししかめっ面になった。なんつー顔してんだよ。それでも女か。

しかしそんな顔も一瞬だけでまたすぐに嬉しそうな顔に戻った。急にどうした。


『じゃあ今のは全部嘘としてとらえていいの?』

「どうだかな」

『ははっ、それも嘘でしょ』


全部、ってわけでもねえよ。明日仕事ってのは本当だしな。まあそれ以外は嘘かもしれねえが。

そしたら佐奈は顔に笑顔を浮かべながら、俺に顔を近づけ耳元でこう言った。



(ったく、素直じゃねえな)(今日だけだよ)














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エイプリルフールに間に合わなかった……orz

最近土方さんが好きすぎてつらいです


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